母校の非常勤講師に

 

引き受けてよかった。

下関から福岡への帰り道。

車を運転しながら、そう思った。

 

あれは今年の春だった。

出身大学の下関市立大の後輩で、今は同大学で准教授を務める上野惠美さんから非常勤講師の打診があった。

科目は「キャリアデザイン」。

社会人になる前の大学生活をどう過ごすか。将来の仕事と大学生活を結びつけて考えられる「きっかけ作り」を提供する。そんな授業だ。

 

その時は、即刻、お断りした。

大学生に教えるような知識や経験もなければ、なにしろ、自分の学生生活はアルバイトと部活に明け暮れていて、参考になるような話は何ひとつない。

 

だが、待てよ。

失敗から学べることもあるのではないか。

 

新聞記者時代を思い出した。

成功体験ばかりを話す人の取材は、あくびが出そうだった。

挫折や失敗を繰り返し、どう乗り越えてきたか。

そんな話こそが、聞いていても面白かったし、記事にすると反響があった。

 

格好つける必要はない。

ありのままの自分を話せばいい。

僕の失敗も含む体験談をどのように受け止め、どう生かすかは学生たち次第。

そう思い直して、非常勤講師の仕事を受けることにした。

 

昨日は、初めての授業だった。

約70人の学生が集まってくれた。

事前に提出された報告書を読んだ。

僕たち家族のことをよく調べてくれていた。

 

学生たちが事前に提出した報告書(写真提供:上野惠美准教授)

 

最新の音響設備が整った真新しい講義室で授業を行った。

学生時代、唐戸市場で働いたこと。

体育会の活動で先輩から先を読む大切さを学んだこと。

自炊生活で身に付いた段取り力。

社会では、指示待ち人間ではなく、自分の頭で考える人材が求められていること。

妻の闘病。

死別の悲しみとどう向き合ったか。

娘と2人で暮らした15年間。

会社を早期退職した理由。

無駄と思っていたような仕事も、実は今の仕事であるドキュメンタリー映画の製作に生かされていること。

 

あっという間の90分だった。

 

帰宅して、娘から「どうだった?」と聞かれた。

「少しは伝わったかな。泣いている学生もいたよ」と答えた。

 

「いいなあ。大学で涙が出るような授業なんて受けたことないよ」

「そうか。確かになあ」

 

涙があふれるということは、共感してくれたということだろうか。

次の授業は来週。

最初は気乗りしなかった仕事だが、今は後輩たちに会うことが楽しみで仕方ない。

 

娘に食べてほしい「だし巻き卵」。失敗。ちょっとこげた。

 

娘がパパに作ってくれた今日の弁当。

 

撮影:はな(2023年10月19日)

 

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