本格ミステリ愛に満ちた作品というのに尽きます。

 

知念実希人さんの作品は、ほぼほぼ医療ミステリでしたが、この作品は、ほんとうに本格ミステリというか、本格ミステリ愛に満ち溢れています。

 

最初に犯人が登場し、本編に入っていくわけですが、これは、本格ミステリの一形態である倒叙モノ?と思わせながら、この”犯人”の視点から話が進みます。

登場人物、密室、名探偵、雪の山荘、不可解な建物等々、王道のミステリのように話は進んでいくのですが。。。

 

ネタバレなしで話をすると、知念さん、こんなにも本格ミステリが好きだったんですね!

という思いをこれでもかと思わされました。

作中の”名探偵”他が語るミステリの歴史や(実際の)有名作品の数々、新本格ミステリ登場以降の作品紹介。

これはもう、エッセイを書いた方がいいんじゃないかと思えるようなお話でした。

 

今まで、本格ミステリとともに平成時代を歩んできた我々にとって、平成のミステリを俯瞰するような時代を再度歩んでいるような、だからこそ小ネタで笑える場面が多々ありました。

 

とにかく、本気でこの作品に入り込むというよりも、楽しみながら俯瞰しながら、そして笑いながら読めました。

新本格以降のいろいろなミステリの手法も盛り込まれ、最終ページに島田荘司さんからの「刊行に寄せて」まで読むと、これからのミステリは新本格を(良い意味で)卒業し、新たな時代に入っていくという希望を持てるような気持になりました。

 

正直なところ、読後感の「感動」とか「いい作品をよんだ!」というものではありません。

あ~面白かった!というのが第一印象です。

 

一つ思ったのが、この作品をミステリをそれほど読んでいない読者がどうとらえるか、ということです。

少々穿った見方をすると、中級者が最も”より”楽しめるような作品のため、これを何も知らずに手に取った方が、ミステリの楽しさをきちんと理解してくれるのかという余計な感想を持ってしまいました。

 

どちらにしても、作中の登場人物が語っていることと通じますが、私は本格ミステリは、

探偵と犯人の勝負ではなく、作者と読者の高尚な闘いであり、また、騙される楽しさを最高の形で味わわせてくれるもの、と思っています。

 

私は、本格ミステリも大好きですが、本自体が子供の頃から大好きでした。

 

旅と同じように知らない世界に安価に誘ってくれるのです。

 

これからも、読書を続けていきたいとこの作品を読んで、強く思いました。