この前ご紹介した辻村深月さんの「善良と傲慢」と作品間リンクがあります。

 

このお話は、母と小学生の男の子が一緒に逃亡するお話です。

といっても、犯罪を犯したわけではありません。

具体的に、なぜ逃亡しなければならないかは、物語が進むにつれて、徐々に丁寧に説明されていきます。

最初は、高知県の四万十の場面から始まります。なぜこのような土地に居るのかということは触れずにまずは生活描写。その後、徐々に徐々に心情も含めてその理由が明かされていきます。

 

章ごとに、高知県の四万十、兵庫県の家島、大分県別府、そして仙台、北海道と全国を”逃亡”していきます。

 

私自身、旅が好きで全国各地を旅してきましたが、たまたまこの作品で描かれている土地は、仙台と北海道以外は近くに行ったり、通ったりはしたもののゆっくりとは訪れていません。

 

それに、この親子は旅をしているのではなく、その土地で生活をしているので、目線が旅人目線ではなく、その土地でいかにして馴染んでいくか、どんな出逢いがあるかというところが読みどころでもあります。

旅をしていると、その土地のことがわかったような気がしてしまいますが、じつはよそ者でしかなく、わかった風に語るのは、それこそ傲慢なことでもあるとも思わされました。

 

本筋の父との関係も次第にわかってきて、読んでいるこちらもドキドキしながら、ページをめくっていきました。この父とのことや親子の成長が最大の読みどころとなりますが、それは、他の書評サイトでも充分に紹介されているでしょうから割愛するとして、とにかく泣かせる場面がいくつもあるとだけはいえます。

ここ最近の私は、仕事へもほぼ復帰して出張も多くなっているのですが、これを出張中に一気に読みました。不覚にも空港の持ち時間で読んで泣きそうになるのを堪えて読み進めました。

 

仙台の場面では、「傲慢と善良」でも登場したヨシノさんが出てきます。

それと、母早苗さんと真美(「傲慢と善良」の主人公)さんらしき人が会話する場面もちょっと出てきて、このつながりに嬉しくなりました。

仙台は、震災より前に7年近く住んでいたこともあって、その場面が目に浮かぶようでした。

 

前後しますが、四万十や別府、家島も旅してみたいと思えるような描写が多く、下手な紀行作品よりもこっちの方がずっといいなと感じました。

 

この作品、日本各地を旅していますが、飛行機を多用していて、鉄道はJR四国の「アンパンマン列車」程度しか出てこないのが鉄道ファンの私としては、少々不満(笑)ではあります。

深刻な気分で「アンパンマン列車」に乗るというアンバランス感にちょっと笑ってしまいました。

それから瀬戸大橋では力くん起きていて欲しかったです!