◆「思い」には力がある
かわいそうな人と接して、「幸せになってほしい」と念じることあります。
にくらしい人に対して、「ひどい目にあえばいいのに」と思うこともあるでしょう。
この時の「思い」や「念」には力がある、と教えられているのが仏教です。
仏教では、私たちの行いに3つあると教えられています。
「心の行い」「口の行い」「身体の行い」の3つです。
通常、行いと言えば「体の行為」のことであり、
広い意味では「口の行為」も含みます。
「立派な言動」「非常識な言動」というときの「言動」とは、
「言葉」と「行動」のことです。
どんなことを体でやったか、どんなことを言ったかが問題にされます。
ところが仏教では、何を思ったかという「心の行い」が最も重要視されます。
「馬鹿」と言って相手の頭をたたいたとしましょう。
「馬鹿」と言ったのが「口の行い」です。
頭をたたいたのが「体の行い」です。
しかし、そんな言動はしなくとも、
「馬鹿じゃないの!」と思ったら、それが「心の行い」です。
心の行いには力があり、行いに応じた結果をもたらすというのが因果の道理です。
◆バカなことをしたカバ
心の行いが体に影響を与えることは、日常でも経験します。
怒りの感情が、体に悪影響を与えた話があります。
動物園で飼育していたカバが身ごもりました。
経過は順調と思われていたある日、
飼育員のちょっとした動作に、カバが激しく腹を立てました。
それがきっかけで死産してしまいました。
怒りによって悪いホルモンが出たのか、子宮の血管が収縮したのか。
とにかく、怒りが死産するほど体に悪影響を及ぼしたことに違いありません。
この出来事が、当時の新聞に「バカなことをしたカバ」という記事で載ったそうです。
人間でも、怒りや恨みによって、身の破滅を招いたという例は珍しくないでしょう。
「人を呪わば穴二つ」ということわざがあります。
人を呪い殺そうと墓穴を掘れば、
その報いで自分の墓穴も掘るようになるという意味です。
「呪う」という心の種まきが、わが身に悪果(悪い運命)を引き起こすのです。
◆人の幸せを念じる
反対に、人の幸福を念じるという心の種まきは、
私たちに善果(善い運命)をもたらします。
オキシトシンというホルモンは、脳の視床下部から分泌され、
心臓病を予防する働きがあります。
オキシトシンを増やす方法に幾つかありますが、そのうちの一つが「親切」です。
実際に体で親切をしなくても、親切を目にする、親切なことを考える、
親切を思い出すだけでもオキシトシンは増えるそうです。
幸せになって欲しい人を思い浮かべ、「〇〇さんが幸せになりますように」と念じる。
この心の行いによってオキシトシンが増え、体も健康になっていくに違いありません。
参考文献
1)デイビッド・ハミルトン:『親切は脳に効く』,サンマーク出版,2018