◆いやいや働かされたのでない
医師はなぜ過労死するのでしょうか。
過労死と聞くと、ブラックな企業のパワハラ上司の元で、
生活に困窮した気弱な人が、無理やり働かされたのではと想像します。
しかし、医師の場合、ホワイトな病院の優しい上司の元で、
お金に困っていない気丈な医師が過労死することもあり得ます。
念願かなって医師になり、夢と希望に燃え、
あれもやりたい、これもやりたいと頑張ります。
努力に比例して、周囲の評価は上がり、収入も増えます。
「助けてください」「お願いします」の患者さんの哀願に奮起し、
より一層、身を削って精進します。
過労死は「働きすぎ」によりますが、医師の場合、
いやいや働かされたのではありません。
「患者の期待にこたえたい」「医師として輝きたい」の心が、
朝から晩まで、その医師を働かせたと言えましょう。
◆体の弱いところが病気になる
モーレツに働いた結果、その人の体の、一番弱いところが悲鳴を上げます。
胃が弱い人は胃潰瘍になり、腸の弱い人は過敏性腸症候群になるかもしれません。
脳に弱点を抱えている人は、自律神経失調症やうつ病になることがあるでしょう。
心臓や血管に難のある人は、動脈硬化から心筋梗塞になりやすいでしょう。
過労死の原因は、20~30代ではうつ病が、
40代以上では心筋梗塞、脳卒中(脳出血、くも膜下出血)が多いと言われています。
◆『車輪の下』にみる、なぜ生きる
ヘルマン・ヘッセの名作『車輪の下』をひも解いてみましょう。
頭のいいハンスという少年が主人公です。
子どものころから成績優秀で、
「こんな小さな町にいてはもったいない。都会に出て輝ける人だ」と、
将来を嘱望されていました。
ハンスは野山で遊ぶのが好きな少年でしたが、
周囲の期待に応えるために、自分の気持ちを押し殺して勉学に励みました。
結果、大きな学校に合格することができました。
その学校でも成績優秀で、さらに大きな期待が掛けられました。
より上を目指そうと勉強を頑張りますが、
そんな勉学漬けの生活に疑問を抱くようになりました。
「人生にはもっと大切なことがあるのでは?」
そのころから頭痛やめまいなど、体調を崩すようになりました。
自分の体が思うようにならない。
さらに追い打ちをかけたのが、学校での人間関係のもつれでした。
「なんのために生きているの?」
「出世のため?」
「周囲の期待にこたえるため?」
生きる目標を失ったハンスは、ある夜、川に浮かんでいました。
事故だったのか、自殺だったのか、本人しか分かりません。
『車輪の下』は、今から100年以上も前に書かれた小説ですが、
「なぜ生きる」について考えさせられます。
過労死する医者は、なぜ死ぬまで働くのでしょうか。
~18につづく~