医師の過労死(17):なぜ死ぬまで働く | 健康は みんなのもの ~皮膚科医のブログ~

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◆いやいや働かされたのでない

医師はなぜ過労死するのでしょうか。

過労死と聞くと、ブラックな企業のパワハラ上司の元で、

生活に困窮した気弱な人が、無理やり働かされたのではと想像します。


しかし、医師の場合、ホワイトな病院の優しい上司の元で、

お金に困っていない気丈な医師が過労死することもあり得ます。

念願かなって医師になり、夢と希望に燃え、

あれもやりたい、これもやりたいと頑張ります。
努力に比例して、周囲の評価は上がり、収入も増えます。
「助けてください」「お願いします」の患者さんの哀願に奮起し、

より一層、身を削って精進します。

過労死は「働きすぎ」によりますが、医師の場合、

いやいや働かされたのではありません。
「患者の期待にこたえたい」「医師として輝きたい」の心が、

朝から晩まで、その医師を働かせたと言えましょう。

◆体の弱いところが病気になる

モーレツに働いた結果、その人の体の、一番弱いところが悲鳴を上げます。

胃が弱い人は胃潰瘍になり、腸の弱い人は過敏性腸症候群になるかもしれません。
脳に弱点を抱えている人は、自律神経失調症やうつ病になることがあるでしょう。
心臓や血管に難のある人は、動脈硬化から心筋梗塞になりやすいでしょう。

過労死の原因は、20~30代ではうつ病が、

40代以上では心筋梗塞、脳卒中(脳出血、くも膜下出血)が多いと言われています。

◆『車輪の下』にみる、なぜ生きる

ヘルマン・ヘッセの名作『車輪の下』をひも解いてみましょう。
頭のいいハンスという少年が主人公です。
子どものころから成績優秀で、
「こんな小さな町にいてはもったいない。都会に出て輝ける人だ」と、

将来を嘱望されていました。


ハンスは野山で遊ぶのが好きな少年でしたが、

周囲の期待に応えるために、自分の気持ちを押し殺して勉学に励みました。
結果、大きな学校に合格することができました。


その学校でも成績優秀で、さらに大きな期待が掛けられました。
より上を目指そうと勉強を頑張りますが、

そんな勉学漬けの生活に疑問を抱くようになりました。


「人生にはもっと大切なことがあるのでは?」

そのころから頭痛やめまいなど、体調を崩すようになりました。
自分の体が思うようにならない。
さらに追い打ちをかけたのが、学校での人間関係のもつれでした。


「なんのために生きているの?」
「出世のため?」
「周囲の期待にこたえるため?」


生きる目標を失ったハンスは、ある夜、川に浮かんでいました。
事故だったのか、自殺だったのか、本人しか分かりません。

『車輪の下』は、今から100年以上も前に書かれた小説ですが、

「なぜ生きる」について考えさせられます。

過労死する医者は、なぜ死ぬまで働くのでしょうか。

        ~18につづく~