ついに産まれたでっぷりとした女の子。
病室に戻ってからも、しばらく乳房から口を離さなかった子。
喜び反面、思わず、「手足はちゃんとあるか、ちゃんと音に反応するか」などと心配になってしまった両親をよそに、寝たいときに眠り、飲みたいときに大声で泣く子。
まだ、実感がわかない。
昔、「アリーマイラブ」という海外ドラマで、詳細は忘れたが、登場人物の一人が
「我が子が産まれると、自分の中から次から次へと無限に湧いてくる愛情に驚く」と言ったシーンだけ、鮮明に覚えている。
しかし、まだ、この気持ちが愛情なのかわからなかった。疲れていた。
確かに可愛い。だって私と夫の赤ちゃんだ。
ただ、「愛さなくては」という責任感が勝っている気がする。
夫も帰り、暗くなった病室で、ずきずきと痛む股間に怠く汗ばんだ体。
隣には産まれたばかりの赤ちゃん。
看護師さんの付き添いで行ったトイレでは、立ちくらみがあった。出産である程度出血していたから貧血は当然。「大丈夫」と思った。水分をとにかく摂らなくては、とたくさん水を飲んだ。
不安があった。でも、大丈夫。みんな通った道。何千年も、何万年も前から、何億人ものお母さんが、この不安な夜を乗り切った。だから私も大丈夫。
あまり眠れないまま朝が来た。
朝食のため、体を起こすとふらついた。
食事が摂れなくなったら終わりだ、とどこかで聞いたことがある。
食事だけは全部食べる、と決めて、左手で体を支えながら全部食べた。
そのあと、様子を見に来た看護師さんに声をかけられ、体を起こしたところで、股からドバっと何か出た。
「あれ…尿じゃないですね。出血ですね」
弛緩出血だった。長引いたお産が原因で子宮がヘロヘロになっていたらしい。
つくづく、ポンコツな母親だ。
1500mlくらい出血し、ベッド上安静になった。尿カテーテルとおむつの生活だったが、恥ずかしさを感じる余裕もなく、早く回復したいとの気持ちしかなかった。
夫も、母親も、病院のスタッフもみんな味方だった。
貧血で母乳があまり出ない。血が出るほど乳を吸われ、痛くて涙が出た。でも、それは、赤ちゃんがそれだけ空腹だということだ。お腹がすいていて、一生懸命吸っているのに、お母さんのおっぱいからお乳が出ないと号泣する。
赤ちゃんは何も悪くない、100点満点以上の頑張り。
でも、お母さんがポンコツだ。
吸いつかれて寝てしまった赤ちゃんを横目に、前述のセリフが何度も頭をよぎった。
『我が子が産まれると、自分の中から次から次へと無限に湧いてくる愛情に驚く』
無尽蔵の愛情、私の中からも湧いてくるのだろうか。
私は、この子をちゃんと愛せるのだろうか?
早く、夜が明けてほしい。時間がたってほしい。体が回復してほしい。
そうすれば、このセリフが正しいことを、身をもって体感できるに違いない。
夢を見たが、内容は覚えていない。赤ちゃんも病院も出てこない、何も現実味のなかった夢であったことだけは覚えている。