日に日に回復する、とはこのことか、としみじみ感じるほど、朝を迎える度、体調が良くなっているのがわかる。
貧血はまだ強いらしく、連日鉄剤の点滴をされ、退院後も鉄剤の内服薬を処方されたが、退院の日には、ふらつきもなくシャワーを浴びることができた。
出産後初めて、音楽を聴いた。
スマートフォンから流れるポップなメロディーと明るい歌詞に、涙が出て止まらなった。
曲目は、当時最新作だったディズニー映画の主題歌だったが、曲はなんでもよかったんだと思う。
悲しいとか、嬉しいとかいうよりも、デトックスのようなものだ。
ひょっとしてマタニティーブルーの一症状だったのかもしれない。出産後はホルモンバランスが急激に変化して、情緒不安定になると聞いていたから、涙が出てもそんなものだと納得し、泣き終わったらすがすがしかった。
結局、母乳の出はまだ悪く、一回の授乳で18gの体重増加がやっとだった。途中からすでにミルクと混合になっている。最初の2日間で、赤ちゃんの体重が一気に減ってしまったが、ミルクをあげるようになってから増え始めてきて一安心した。
相変わらず搾乳や授乳は痛く、乳首には血豆ができた。授乳のやり方も慣れていないから当然だ。授乳が終わるとホッとしている自分がいた。
退院後は、しばらく実家でお世話になることになった。実家は母親のひとり暮らし。
母親は体育会系で根性が座っているが、それでも今年65歳。高齢者の仲間入りだ。
赤ちゃんだけでなく、まだ体調も万全ではない、身も心もヘロヘロな娘も転がり込むのだ。頼らざるを得ないのはヤマヤマだが、迷惑ではないだろうか。約一か月間、軋轢なくうまくやっていけるだろうか?
そして職場復帰も大丈夫だろうか?
赤ちゃんは夜寝てくれるだろうか。私の体力は順調に回復するだろうか。
2週間後に健診に来なくてはいけないけれど、ちゃんと赤ちゃんを連れてこられるだろうか?その時に夫や母親にかける迷惑の大きさや如何に??
退院の日は蒸し暑く、晴れた日だった。
夫と母親に付き添われて退院となった。
病院から出たら、晴れやかな気分になるかと思ったが、様々な不安が湧いては消え、湧いては消えた。
大丈夫、みんな通ってきた道なんだから大丈夫。
母親や夫が協力的じゃないのに、立派に育児を成し遂げているお母さんもたくさんいる。
私には頼れる人がいる。みんな、味方なんだから。
大丈夫、大丈夫…
と、言い聞かせた。不安をかき消すように、久しぶりにメイクをした。
いつか特別な時に使おうと思っていた、高級ブランドの化粧下地のサンプルを開封して、出産前に新調していた、明るい色の口紅をつけた。
一体誰に見せるのよ、と自分で自分にツッコミを入れつつ、メイクをする余裕があるんだから大丈夫、と少しだけ気持ちが軽くなった。
赤ちゃんは帰りのタクシーでもぐっすり寝ていた。本当にできた子である。