今日は父に施している実験のお話をしたいと思います。
被験者が一人では実験と言えるのか疑問ではありますが、この仕事をして生きてきて、常に感じることがありました。
それは全身の筋肉量と認知機能の関係です。
以前、大腿四頭筋と認知機能の関係に相関関係があるという発表がありましたが、私は大腿四頭筋に限らず、全身の筋肉量ではないかと感じているのです。
掘り下げれば、つまり、大腿四頭筋の筋力が発達するというのは、日々しっかりと歩行しているということであり、故に活動量が維持され、結果認知機能の維持につながっていると予想されます。
発表の内容では大腿四頭筋と限定されていましたが、それは歩行によって発達する筋肉の代表的なものであるからだ私は理解しています。
では、大腿四頭筋が存在しない人はどうなるのでしょうか?
父には左足がありません。
大腿四頭筋が存在しないのです。
水泡性類天疱瘡での入院でベッド上安静が続き、退院時、父の足は大変細くなっていました。
車椅子移乗でも、協力動作はあるものの、支持脚の筋力が弱く、とても不安定だったのを覚えています。
この頃の父は発語がなく、いつもの退院時同様、頭に霧がかかっているような様子でした。
そして私は、この父の退院の日から、さっそく始めた実験があるのです。
それは、残された父の右足の筋力を回復させるための取り組みです。
個人的な興味を優先すれば、大腿四頭筋ではなく、他の筋力を回復させて実験してみたかったのですが、父の生活を優先するべきなので、やはり父に残された右足の大腿四頭筋回復となりました。
既に発表されている大腿四頭筋の筋力回復と認知機能の回復関係を実証してみてもあまり意味がないかも知れませんが、これはこれで面白い研究だと思い、毎日続けています。
認知機能が低下して、リハビリスタッフの指示も入らない父に対して、如何に筋トレを実施するか、それが問題ですが、毎日父の介護をしている私には秘策がありました。
毎晩ベッドで横になると、父は右足を自由に動かして痒い所に手を届かせるのです。
皮膚の損傷を防ぐために、父には手袋をして寝てもらっているのですが、私はこの父の行動を利用することにしました。
拷問だという人もいるかもしれませんが、就寝時の父の右足首に250グラムの重りを装着したのです。
初めのうちは父の足の動きが重りの重さによって消極的になりましたが、来る日も来る日も諦めず毎日続けていると、3カ月たった今では、重りが足りない程の動きになりました。
父の右足大腿四頭筋は確実に回復してきたのだと思います。
移乗時の立位も毎度安定してきましたし、認知機能的にも少し浮上してきたように思います。
言葉が出るようになりました。
会話が成立するときさえあります。
どこまで言葉が回復するかは、これからの実験によるのかも知れません。
拷問のような筋トレを続けながら、次は他の部位の筋力回復を目指したいと思います。