父が入院して、再びバケーションが訪れた私だったけど、そんな時、思いもよらず、看取り看護が始まってしまった。

 

 愛猫コテツの看護である。

 

 うちには猫が3匹いる。

 

 コテツは平成24年、7月11日から我が家の家族になった最初の愛猫である。

 

 当時3人の子供を子育てしながら家事に追われる日々の中で、動物を飼う事等、正直想定していなかった。

 

 しかし、介護支援専門員として再始動したばかりで、忙しさから、子供達への愛情が不足がちになるかも知れないという想いもあり、当時6歳だった長女が、庭で見つけて拾ってきた生まれたての子猫を、子供達に懇願され,渋々飼う事になったというのが始まりである。

 

 コテツは生まれつき上手くミルクを飲めない子で、育たないと判断した親猫に早期に見捨てられた猫であろう。

 

 まだ臍の緒もついていた。

 

 子猫用のミルクを買って、哺乳瓶で飲ませても、コテツは上手く飲めなかった。

 

 なので、哺乳瓶の乳首の先に切り込みを入れ、吸わなくてもミルクが出るように調整して育てた猫である。

 

 当時中学3年生だった長男が、夏休みを返上して日中の哺乳係を担当し、私は仕事から帰宅しての時間と、夜間の就寝前と早朝を担当して、ほぼ3時間おきの哺乳期間を乗り切った。

 

 貧弱な手足だったコテツは見る見るうちにふくよかになり、パサパサだった毛並みも何時しかつやつやになっていた。

 

 人見知りの強い子で、玄関に人が来たら部屋の隅っこに隠れて居なくなるまで絶対に出て来ない子だった。

 

 後に2番目の猫の華が来て、更に3番目の猫の幸が来て、賑やかになった我が家だったけど、コテツは若い猫達に絡まれるのが嫌いなようで、いつも嫌がっていたっけ。

 

 そんなコテツに異変を感じたのはほんの数日前の事。

 

 年も取ってきたし、食事の量も減ってきたとは思っていたけど、全く食べなくなって、水も飲まなくなった。

 

 あまり動かなくなり、一日ずっと同じところでじっとしている。

 

 おかしいと思ってすぐに病院受診したけれど、診断は慢性腎不全の末期だった。

 

 壊れた腎機能は戻らないと言われ、取りあえずの点滴を受け、食事介助用の注射器と栄養補助ミルクを貰って帰った。

 

 何も欲しがらないコテツに食べないと元気にならないからと、注射器でミルクを流し込む。

 

 獣医師に言われた通りの看護を実践しながら、嫌がるコテツを前にして、私は疑問に感じていた。

 

 これはいったい誰の為なんだろう?と。

 

 コテツは食べる事が自分の負担になると感じて食べないようにしているのではないのか?

 

 食べないと死ぬ、別れが辛い私がその現実を受け入れ難くて、無理強いしているのではないだろうかと。

 

 獣医師は1週間やってみて自分で食べ始めないなら、無理だろうと話していた。

 

 でも点滴三日目。

 吸収されない薬剤、上がらない体温。

 

 もうこれ以上はやっても回復は見込めないと言われてしまった。

 

 言われるまでもなく、私は覚悟が出来ていたけど、辛かったのは、弱っていくコテツを前にしながら、何もしてあげられない事だった。

 

 何も食べない、何も飲まない、そして何も排泄しないコテツ。

 

 ただじっとしているのだけど、私の存在に気が付いたら、よろよろしながら近づいてくる。

 

 そして身体を任せる様に横たわり、目だけで視線を合わせてくる。

 

 私はただ撫でてやる事しか出来ず、それがあまりに無力で、何故もっと早くに気が付かなかったんだという後悔とコテツへの謝罪の念に苛まれていた。

 

 県外に住む長男を含め、子供達にコテツとの別れが近い事を告げ、コテツが苦しまずに逝ける様に見送ってあげようと話した。

 

 いつもは羽を伸ばす週末も、コテツの為に傍に付いていてやらねばと思っていたのに、そんな想いを知ってか知らずか、コテツはあっさり土曜の朝には旅立ってしまった。

 

 棺を用意して、ふかふかのクッションの上にコテツを安置して、花いっぱいにしてコテツを荼毘に付した。

 

 人も動物も同じ。

 体内で処理できなくなったら、取らなくなる。

 

 皆枯れる様に死んでいく。

 

 でもそれが自然に還るって事なんだと思う。

 

 だけどさ、看取り看護はとにかく辛いよ。

 

 何か出来る事があるうちは、どんどんやるべき、まだ幸せ。

 

 医療にも限界がある。

 

 何もできなくなってから、ただ別れの時を待つ時間というのは、家族も援助者も辛いものだ。

 

 コテツはそれが解っていたのかな。

 私の辛い時間を僅かにしてくれた。

 

 ありがとうコテツ。

 

 あのつやつやの毛並みを撫でられなくても、そのぬくもりを感じられなくなっても、その瞳、その声、ずっとずっと大好きだよ。

 

 決して忘れない。

 またいつか、どこかで会おうね。