結論から言って、私は6万5千円を払わないという決断をした。

 

 父にこのまま副作用の傾眠が強く出過ぎる処方を飲ませ続けることは、誤嚥性肺炎を誘発する事になるので出来ない訳だけど、かと言って、薬局が自分達の手間を省く為に、退院時処方と違うものを出し、それを正す為に私が6万5千円を負担するというのは、どうにも納得がいかなかった。

 

 薬局にしても、元々粉のものがあるので、粉でお出ししていいですか?と私に問い、私もいいですよと言ってしまっている。

 

 なので、処方はこのまま内服する事にした。

 

 但し、薬剤情報と睨めっこしながら、考え、朝食後と夕食後の内服薬は目分量で減量する事にした。

 

 父の処方は内服しやすいように、全てが粉状になっていて、全てが一つの薬包の中に入っている。

 

 薬は粉状で混ざり合っているという訳だ。

 

 だから、この状態から減量したい薬だけを選んで減らす事等不可能。

 

 薬情を見て、問題となる、錠剤を粉で出したものだけを見る。

 

 3種類あった。

 

 うち、2種類が副作用に傾眠があり、朝食後と夕食後になっていた。

 

 故に、父の内服薬を、朝と夕だけは薬包に少し残す形で投与。

 

 意図的に内服量を減量したのである。

 

 さあ、実験の始まりだ!

 

 退院時処方から院外処方へ移行した時も、内服3日目頃から変化が出始めた。

 

 今回も減量開始して3日目頃が勝負の時!

 

 ほ~らね!ほら!

 

 父の覚醒が良くなり始めた!

 

 やっぱり薬のせいだった!

 とここで確信できた。

 

 父はね、退院時処方を飲みながら、在宅生活で、私からマンツーマンの朝と夕の介護を受け、昼間はデイサービス、週末はショートと、しっかり介護を受けると、入院中より覚醒が良くなって、ベッド上でおはようと声をかけるとおはようと返すし、良く眠れた?と聞くとうんと答えていたの。

 

 就寝着から日中活動着に更衣する時は、手すりを持って端坐位保持も30秒くらいは出来ていた。

 

 朝食も箸を持ってご飯を口に運ぶことが数回は出来ていたし、車椅子からベッドに移乗する時や立位訓練の時も、しっかり自分の一本足で、自身の体重を支持する事が出来ていたの。

 

 でもそれが、傾眠が強くなるとね、朝はおはようと言っても反応ないし、端坐位保持は全くできなくなる。

 

 食事の時も箸を持てないし、何より口を開かなくなる。

 

 無理やり入れても飲み込まない、咀嚼しない。

 

 口の中にいつまでも溜め込んでいる。

 

 立位訓練だって、自分の足で支持しなくなるから、父の全体重が介護者に係るという訳。

 

 それだけじゃないよ。

 

 ただ、車椅子に座っているという事さえも出来なくなる。

 

 どういうう事か?

 

 身体が傾いてしまって、車椅子から転落する危険が及ぶの。

 

 傾眠が強くなるって、つまり、介護が大変になるってことなのよ。

 

 だからね、認知症の人を介護する時は、周辺症状の悪化を防止しつつ、覚醒状態も良好に維持する事が重要って訳。

 

 これが上手くできていないと、介護疲れになって、虐待に繋がる。

 

 施設に入ると医療の目が行き届かなくなるから、上手くいかない原因がどこにあるのかもわからなくなって、介護者が疲弊し、虐待に繋がっている事例、実はいっぱいあるんだよ。

 

 悲しいけれどそれが現実。

 

 では次回はそんな状況を体験したお話を致しましょう。