父を入院させた訳。

 

 それは、飲み込みが出来なくなったからである。

 

 ショートステイの受け入れ拒否を受けて、今後の安定した在宅介護の為に、入院して処方調整を行った父であったが、退院後、自宅での日常生活の中では覚醒が良くなっていた。

 

 しかし、誤嚥性肺炎で発熱してからは、退院直後のような覚醒状態に戻る事はなく、傾眠傾向が強くなり、食事に時間がかかるようになっていた。

 

 とろみをつけた水分を飲み込み辛くなったことが始まりで、その後にまた2度目の肺炎熱発。

 

 内服の抗生剤ですぐに熱は下がるのだが、発熱ごとに脳の覚醒状態は悪くなっていった。

 

 水分だけでなく、軟飯軟菜の食事まで、なかなか飲み込まなくなり、食事に恐ろしく時間がかかるようになった。

 

 それも初めは、時間がかかっても全量摂取出来ていたのに、次第に食べきる量が減少し、ついには口を開かない、無理やり入れても口の中で溜め込み、いつまでたっても飲み込まないといった状態で、私がこれは入院せざるを得ないと感じた瞬間は、朝食時に僅か少量の食事しか口にできず、その日の夕食でも全く食べることが出来なかった時である。

 

 言っておくが、この時父が眠っている訳ではないという事を強く主張しておく。

 

 眠っていないのに、食べられない。

 

 どういうことか、わかります?

 

 少し前、傾眠傾向が強すぎて食事が出来ない時というのは、声を掛けたり、身体をトントンと刺激したりすることで、父を覚醒させ、食事することが出来ていた。

 

 しかし、起きているのに飲み込めないという状況は、飲み込むという生理的反射的機能を失ってしまったかのようであった。

 

 その方法を忘れてしまったかのよう。

 

 父の食事スイッチを入れる為に、いつもしている声掛け、エプロン装着、箸を持たせるといった行為を、普段通りにやっていたし、リセットさせる為に、一旦全て外して、車椅子移動して、もう一度食事テーブルに着くところからやり直してみてもダメだった。

 

 その日は1度目のコロナワクチンの接種を終えた翌日の事で週の半ば。

 

 1度や2度食事を抜いたからと言って、それがすぐさま命に直結するものではない。

 

 しかし父の場合、週末にはまたショートステイが控えており、私の手を離れることが確定している。

 

 新しいショートステイのスタッフさんも家族支援という視点のもと、自宅での家族介護方法等いろいろ聞いてくれるし、利用中の様子など報告もしてくれる。

 

 だけど、スムーズに介護提供が進まなかった時の些細な判断ミスで、また誤嚥性肺炎を起こしたら?

 

 熱が出て、抗生剤で仮にすぐ解熱したとしても、また何かしら熱による脳へのダメージが起こったら?

 

 何より、飲み込みが出来なくなった父に、いったいどうやって大切な内服薬を体内に届けるというのだ?

 

 それを想うと、一刻の猶予もなく入院させるしかないという私の決断に、一縷の迷いもなかった。

 

 入院により、父に本来必要な介護提供量は減少してしまうけど、そんなことを言っていられない現状だと即座に決断した1日だった。