朝、就寝着から活動着に着替えて車椅子に移乗した後、次は洗面である。

 

 洗面、朝起きて、顔を洗う行為。

 

 当たり前に皆が行う日常生活動作だけれど、父にはこれが出来ない。

 

 少し前までは出来ていたのだが、令和2年1月の誤嚥性肺炎治療の為の入院で、一般病棟に一か月程入院した後からできなくなってしまった。

 

 顔を洗ってと言っても勿論できないし、洗面所で体制を前傾姿勢にしても声を上げて抵抗する。

 

 手で水をすくって顔を洗うという行為を、完全に記憶から消去してしまっているかのよう。

 

 それ以後から父の洗面はタオルで顔を拭くという行為に変わった。

 

 病院でもそうだったのだろう。

 

 タオルで顔を拭くという行為は、父にも理解が出来るらしく、抵抗もなければ受け入れ態勢も万全である。

 

 だから、今では毎日、洗面台まで行って、電動シェーバーで髭を剃った後、顔を拭くねと言ってから、父の顔をお湯で洗ったタオルで拭いている。

 

 父の中ではその行為がもはや洗面行為として認識されているようで、毎日ただお湯で洗ったタオルで顔を拭くだけなのに、父はとても気持ちよさそうにしている。

 

 さて、問題はこの後。

 

 頭をとくのは簡単だけど、なかなか大変なのが、入歯の装着。

 

 毎晩20時前には布団に入り、朝まで何も口にしない父は、起床時の口腔状態としては最悪で、乾燥しているか、汚れた唾液でいっぱいになっているかである。

 

 この唾液の中には一晩中で繁殖した雑菌がウヨウヨ。

 

 万が一誤嚥しようものなら、肺炎発症のリスクは急上昇。

 

 だから必ず入歯装着前には父に嗽をしてもらう。

 

 嗽と言っても、喉でゴロゴロすることは出来ず、水を含んで吐き出すだけであるが、これが出来れば父には合格点なのである。

 

 だって時にはその水を飲んでしまうし、前傾姿勢の保持が甘いと、時に失敗して咳き込んでしまう。

 

 咳が出るのは誤嚥予防の反射だから良いけれど、それでも幾分かは気管に入ってしまうだろう。

 

 上手く汚れた唾液を吐き出し、口の中が適度に潤ったなら、それからいざ、入歯装着である。

 

 父の口の中は今、とても荒れている。

 

 長年、丁寧に歯を磨いてこなかった故、歯槽膿漏は進行しているし、今のような重度の認知症になってからというもの、歯磨き自体ままならないというのが現状だ。

 

 歯茎が下がって、今にも抜けそうな歯に、辛うじて部分入歯の金具をひっかけている。

 

 入歯の装着をしますと言ったところで父には理解できず、きちんと装着できるまで、口を開けて待っていてくれなどしない。

 

 だからここにも技術が必要なのだ。

 

 私の場合は、入歯入れるよ、口開けて、1,2の、3!と声をかけて一瞬大きく開いた隙に下の入歯を入れて装着させる。

 

 下が入ったら、次は上。

 

 同じように、1,2の、3!と掛け声をかけて、父の協力動作を誘発している。

 

 入歯の装着もさることながら、もっと大変なのが父の歯磨きである。

 

 それについてはまた次回、たっぷり愚痴らせて頂きます!