父は毎朝7時に起床する。

 

 起床すると言っても、ベッド上でゴソゴソ動いている時も在れば、往復鼾で爆睡中の時も在る。

 

 どんな場合であっても、毎朝7時におはよう!と声をかけ、おはようと返答の有った時には、よく眠れた?と問う。

 

 そう会話しながら、オムツのチェック。

 

 尿漏れ無しか、尿漏れありか。オムツ内排便ありか、或いは無しか。まずはチェックしてから、それぞれに備えてオムツ交換である。

 

 日中用の紙パンツに尿取りパットをセットして、下半身の更衣を完了したら、そのままそこで、右足のリハビリを始める。

 

 父にはもう足が一本しかない。残っている右足は今後の生活レベルに大きく影響する。膝がしっかり伸びるか伸びないかはベッドから車椅子への移乗時に大きく影響するのである。

 

 膝がしっかり伸びない場合は立位時の筋力により大きな力が必要になる。両足ある人でも、単なる立位と両膝を少し曲げた状態での姿勢保持には大きな筋力の差がある事をお分かり頂けるだろう。

 

 故に父の右膝がしっかり伸びる様に、起床時のベッド上でのこのリハビリは毎日欠かせない。

 

 下半身の準備が整えば、次は上半身。

 

 先に衣服のボタンは外しておいて、声を掛けながらベッドのモーターボタンを押し、電動機能を利用して上半身を起こす。

 

 父の上半身がフラットの状態からでも身体を起こすことは可能だが、その場合は介護者の負担が大きく、腰痛の原因にもなり得る。

 

 在宅患者が自宅での生活において、モーター付きのベッドをレンタルしている事をよく見かけるが、その機能を十分に使いこなせているかは疑問である。

 

 時には不必要な機能を備えたベッドをレンタルしている場合も見受けられ、より安いものでも十分足りると意見させてもらう事もしばしば。

 

 介護保険制度の利用については、本当に奥が深く複雑で、知識や経験、行動力や文章力を兼ね備えた介護支援専門員が欠かせないという事だ。

 

 話を戻すが、父の上半身をモーターを使って起こした後は、もう一度おはようと声をかける。

 

 先にかけたおはようという言葉を父は覚えていないからである。

 

 普通は身体を起こしている状態でおはようと声を発したり、声を掛けられたりするものであるが、父の場合、初めのおはようは、朝が来たからこれから起床する為の準備を始めますよの合図であり、上半身を起こした時に改めておはようとなるのである。

 

 それから上半身の就寝着を全て脱がせて、乾燥した肌にローションを塗布。痒みのあるところに治療用軟膏を塗布。

 

 手間であるが、日中の過ごしやすさの為には必要な処置である。

 

 そして、本日の活動着に着替える。

 

 夜間の間に自分の体温で温まった衣服を脱ぎ、少しひんやり感じる洗濯済みの衣服を着ることで、皮膚刺激にもなり、父は改めて朝、起床したと認知するのである。

 

 認知症の人には如何に認知させるかが、重要。

 

 認知しやすい環境を如何に提供できるかが正に介護技術なのである。