こんにちは、がんチャレンジャーの花木です。

今、「挫折は乗り越えなくていい」という本を書き始めているのですが(出版目処は今のところ立っていませんけど…)、今日はその中の一部をご紹介させてください。

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多くの人は、挫折経験を乗り越えなければいけないというふうに思っているかもしれません。

しかし、私は、「挫折経験は必ずしも乗り越えなくてもいい」と考えています。

「その挫折を乗り越えなければ」と思えば思うほど、よりつらい状況に追い込まれてしまうこともあるのではないでしょうか。その経験を糧にするためには次に絶対結果を出さなければいけないということで自分をどんどん追い込んでしまう、そういうケースもあるような気がします。

しかし、そういった経験を、無理に結果で乗り越えようとしてしまうと、また次に結果が出なかったときに、大きなジレンマを抱えることになると思います。

なので、もし仮に「挫折を乗り越える」ということで考えるのであれば、最後までやり切れるかどうかといった部分にフォーカスしてほしいのです。

そして、もし仮に途中で自分から投げ出してしまったという挫折であれば、「次は何とか最後までやってみよう」という思いで取り組むといいと思います。

でも、少なくとも「やりきった」と自分で胸をはれるのであれば、結果は挫折とは考えないでもいいんじゃないかなと思うわけです。あくまでも「やりきった」ということで自分に合格点を出してあげるのです。

挫折を力に変えるということもそうです。もちろんそういうことができる方はいいと思いますが、むしろ、挫折を力に変えるというよりは、やりきったという事実を、また次のときに、力に変えていくというのがいいのではないかなと思います。

自分の目標や夢がある程度実現可能性が高いものならいいのですが、可能性が低い場合はどうしても強豪やライバルがたくさんいるわけです。その中で勝てる人は一握り。そういったときに毎回毎回結果を追っていくと、自分がどんどん息苦しくなってしまうでしょう。

しかも勝てる可能性は決して高くない。それで自分をすり減らしていくのではなくて、あくまでもそのプロセスを大事にしてあげてほしいなと思うのです。


ここで一つ、私の知人の話をさせてください。子どもの友人のパパ、いわゆるパパ友です。

彼は学生時代、かつて甲子園出場まであと一歩に迫ったような強豪高校で野球をしていましたが、努力の甲斐無く、レギュラーに定着することはできませんでした。中学まではそれなりに自分の力に自信を持っていたものの、レギュラーたちの実力はそれを遥かに上回っていました。

しかし、野球で上に上がることを諦めきれなかった彼は、その後、大学でも野球を続けました。

大学卒業を控え、プロからも企業チームからも声がかからなかった彼は、それでもまだ諦めきれずに、一旦就職しながらも地元のクラブで野球を続けることを決意します。しかも、趣味としてではなく、あくまでも上を目指してです。その時点での彼の目標は、独立リーグのテストに挑戦し、合格することでした。

高校、大学と目立った成績をあげてこなかった上に、仕事を抱えながらの挑戦。周囲には無謀に思えたかもしれません。しかし、彼は本気でした。

平日は仕事終わりにバッティングセンターに通う毎日。週末は、クラブチームで練習や試合に明け暮れました。

都市対抗野球の予選で、実業団チームと対戦し、ゆくゆくプロ野球選手になるような有望株の凄さを目の当たりにしながらも、「自分は自分」とコツコツ努力を続けました。

「これで最後」と決めた独立リーグのトライアウト。結果は、あえなく不合格。しかし、このとき彼はようやく「自分がやれるところまでやりきった」という思いでバットを置くことができたそうです。

確かに目標には手が届かなかったかもしれない。でも、高校卒業や大学卒業といった与えられた節目で区切りをつけるのではなく、あくまでも自分自身がやりきったといえるところまで完全燃焼した経験は、自分にとって重要だったかもしれない、と後に彼は語っています。

25 歳から本格的に仕事一本に絞って生活を始めた頃は苦労もしたそうですが、30 代後半に一念発起し、難関と言われる社会保険労務士試験へのチャレンジを決意。3 年目についに合格を勝ち取り、今は新たなキャリアを歩んでいます。

試験合格時に話を聞きましたが、やはり、「たとえ結果が出なくても、野球を納得するまでやりきった経験が、この試験挑戦にも活かされたかもしれない」と語っていました。

1年目、2年目とあと一歩で不合格となった。働きながらの勉強の日々に心が挫けそうになった。「でも、まだ納得するまでやりきっていない」と 3年目も挑戦。試験が終わったあとは、「納得いくまでやりきったから、結果はどうあれ、これで最後にしよう」と思えたそうです。

もしこの試験に合格できなかったとしても、彼にはきっとこのチャレンジは財産として残ったのではないでしょうか。

彼のケースのように、一見挫折と思える出来事でも、本人が納得するまで取り組むことで、未練や後悔が少なくなるように思います。また、その経験が次のチャレンジにつながることもあるでしょう。

彼が 3回目の社労士試験終了後に感じた「納得いくまでやりきったから、結果はどうあれ、これで最後にしよう」という心持ちを、ひとりでも多くの人が持つことができれば、と思い、このエピソードを紹介させてもらいました。

ちなみに、彼とは時々一緒にバッティングセンターに行くのですが、「いやー、昔はよくこんな速い球打ててたなーと思いますね」と笑う彼は、今、心から野球を楽しんでいるようでした。

(了)