ようやく3年前の治療の苦しさなどを忘れかけていた2021年1月。私は、小さいながらもがんの局所再発を指摘されました。

再発リスクのある2年が経過し、そろそろ安全圏内に入ってきたかなーと思っていた矢先でしたので、大きなショックを覚えました。と同時に、初発のときのショックも思い出しました。

青天の霹靂といいますか、やはり何もないと思っていたところに、いきなりがんという重い病気の存在を突きつけられるわけなので、精神的にキツいんですよね。そして、こういった経験を積み重ねていくと、こう考えるようになります。

「結局またいつか再発してしまうんじゃないか」
「せっかく取り戻してきたこの生活も、また失うことになるのか」

といった具合です。

こうなると、そのときの精神的ショックが以後も頭にこびりつき、なかなか思い切った行動が取れなくなってしまいます

症状としては、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)という病気が近いと思いますが、厚生労働省のHP「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト」ではその症状を以下のように解説しています。

「PTSDは、とても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気です」
【出典:「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト」厚生労働省HP】

いわゆるトラウマです。このような状態では、いくら本人が前を向いていこうと思ったとしても、「また同じような経験をしたくない」という意識から、キャンサーロストを避けるように、目標や望みを持つことをセーブしてしまいがちです。

望んだものが手に入らなかったらショックも大きいですからね。そのショックを先回りして和らげるために、初めから望みを持たないようにしたり、今までよりも低めに設定したりする。こうして精神の防衛に入るのです。

一方で、心的外傷後成長(Posttraumatic Growth:以下PTG)という概念もあります。「トラウマティック」な出来事、すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間としてのこころの成長をさす言葉です。

もちろん、人によってはPTGを手に入れられる場合もあるでしょうが、前節で述べたように、それは少なくとも周囲が求めることではありませんし、また、仮に手に入れられたとしてもいつそのような状態が訪れるかについては個人差もあるため、罹患者本人としても焦らずに取り組んでいく必要があります

がん研究会有明病院の腫瘍精神科部長である清水研先生も、著書の中でPTGについてこう触れていらっしゃいます。

「ただ、患者さんご本人は『成長した』という感覚はあまりないようですし、『成長しよう』と思われる方もまずいらっしゃいません。

私が『だいぶ考え方が変わられましたね?』などと申し上げても、『日々悩みながら病気と向き合っているだけです』とおっしゃる方がほとんどです。心的外傷後成長は、その人があるがままに病気と向き合うプロセスの中で、自然に生じるものなのです。

ですので、病気になって今まさに悩んでおられる方々には、『悲しみを経て成長しなければならない』とは決して思わないようにしていただきたいと思います。無理に前向きになろうとすることは、傷ついた自分をさらに鞭打つようなもので、決してご本人のためにならないと思います」

【出典:『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(清水研、文響社刊)

私自身、がん罹患後、少々無理をして前を向こうとしてしまった時期があったため、かえって深い葛藤が続いてしまったなと、今になって感じています。

(続く)