ドイツの哲学者であるアルフォンス・デーケン氏は、悲嘆からの立ち直りを、以下の12のプロセスに分けています。

『「悲嘆のプロセス」の十二段階』
①精神的打撃と麻痺状態
②否認
③パニック
④怒りと不当感
⑤敵意とうらみ
⑥罪意識
⑦空想形成、幻想
⑧孤独感と抑鬱
⑨精神的混乱とアパシー(無関心)
⑩あきらめ-受容
⑪新しい希望-ユーモアと笑いの再発見
⑫立ち直りの段階-新しいアイデンティティの誕生

【出典:『よく生き よく笑い よき死と出会う』(アルフォンス・デーケン著、新潮社刊)】

デーケン氏が提唱した上記12の段階は、主に「大切な人との突然の死別」がテーマにはなっていますが、それ以外の「突然の喪失」への悲嘆にも応用することができます。さらにデーケン氏はこう続けます。

「悲嘆を経験する人のすべてが、これらの十二段階を通過するわけではありません。また、必ずしもここに挙げた順序通りに進行するとも限りません。時には複数の段階が重なって現れたりするということを、覚えておいてください」

【出典:『よく生き よく笑い よき死と出会う』(アルフォンス・デーケン著、新潮社刊)】

つまり、上記をご覧いただくと、少しずつ喪失を受け入れていき、最終的には立ち直っていくように見受けられますが、必ずしもこの順序通りに立ち直っていけるわけではなく、また、一旦立ち直ったと思ったとしても、何かのきっかけでまた前のプロセスに戻ってしまうこともあるでしょう。そもそも立ち直りのプロセスまでたどり着けないことだってあるかもしれません。

デーケン氏とも親交の深かった精神科医であるエリザベス・キューブラー・ロス氏が、『死ぬ瞬間』(中公文庫)で明らかにした「5段階のプロセス」(第1段階:否認と隔離、第2段階:怒り、第3段階:取引、第4段階:抑うつ、第5段階:受容)も同様に、自らの死以外の喪失にも応用できるプロセスと言われていますが、こちらもやはりこのプロセス通りに進むとは限りませんし、行きつ戻りつすることもあるでしょう。

しかし、周囲の方には、そのような状況が目には見えないため、「もう●年も経ったのだし、明るくふるまっているから立ち直ったのだろう」と誤解されてしまうこともあるかもしれません。

喪失感を抱いている人の心は、時にこのように明確に段階を踏むこともあれば、そうでないことも多々ある、複雑かつきわめて個別性の高いものなのではないでしょうか。

ここまでに書いたように、なかなか次の一歩に踏み出せない中で、キャンサーロストをある程度まで乗り越えるだけでも、簡単な作業ではないことがお分かりいただけたら幸いです。

(続く)