「日本社会には敗者復活戦がない」と言われたり、書いてあったりするのを目にしたことはないでしょうか。
敷かれたレールから少しでもはみ出してしまった場合、またそのレールに戻ることが容易ではないことを表す言葉です。
こうした考え方から、夢である起業に踏み出せなかったり、失敗を恐れて職場でのチャレンジをしづらかったりする方もいらっしゃるかもしれません。
がん罹患経験者はそれに輪をかけて、敗者(あえて敗者と書きます)復活戦の機会が少なくなるように思います。
がんは、一度病巣が消滅したとしても、再発や転移のリスクがつきまとってきますし、治療の副作用や後遺症に悩まされ続ける方も多い。さらには、健康に対する不安を抱えているわけなので、自身も周囲も、どうしても新たなチャレンジに対して慎重にならざるを得ない。
結果として、たとえキャンサーロストの経験を乗り越えようと、次のステップを意識したとしても、なかなかその一歩が踏み出せないということがあります。また、たとえ踏み出せたとしても、なかなか思うように事が進まない。それはそうでしょう。もし同じ力のある人が二人いたとして、一人は健常者、もう一人はがん罹患経験者だったら、どうしても健常者の方を選びたくなるものです。
それは私たち罹患経験者も頭では十分に理解しているつもりです。
それでもやはり、希望は失いたくないんですよね。「もしかしたらこれだったら今の自分でもやれるんじゃないか」というそんな希望が。
もちろん、政府ががん対策基本法をはじめ、がん罹患経験者が生きやすい世の中になるようさまざまな施策を打ち出してくれていますし、医療機関も同じく罹患経験者が暮らしやすい社会の実現に向け尽力してくれているのは事実です。また、多くの民間団体や患者団体が、それぞれの特性を活かして私たちがん罹患経験者をサポートしてくれてもいます。
それによって、私たちがん罹患経験者はさまざまな恩恵を受けています。
しかし、最低限の暮らしを営むことと、自分らしい生き方を目指すこととはまた別の問題です。
残念ながら、今の日本社会では、がん罹患経験者に敗者復活戦はなかなか用意されていないのが現状です。
(続く)
