さらに、こんな誤解もあります。「がんに罹患したんだから、いろいろとできないことがあっても仕方ないと、がん罹患経験者たちは思っている」というものです。

確かに、現実として、できなくなることや失うものは出てくるかもしれません。しかし、それを「仕方ない」と受け入れているがん罹患経験者は、経験上、決して多くはないように思います。

むしろ、いくら受け入れようと思っても、やはり程度の差はあれ、「なぜ自分が…」「何か悪いことしたのか…」と自問自答を繰り返しているものなのではないでしょうか。 

しかも、仕事や家族などを抱えていれば、なおさら、「仕方ない」で割り切れない事情も出てきます。いくら自分が病気だからといって、世の中は普通に回っているわけですからね。

がんに罹患したら、仕事をしなくてもお金がもらえたり、家族を代わりに養ってもらえるならまだしも、そのような制度はもちろん現時点では存在しません(確かに障害年金など、一定の条件を満たすことで、金銭の一部を補填してもらえる制度はありますが、それだけでこれまでの生活水準を維持できるわけではありません)。

緩和ケア医で、難治性がんであるジストの治療をしていらっしゃる大橋洋平氏も著書の中で以下のようなことをおっしゃっており、大変共感しましたので、紹介させてください。

「コロナにばかり目を向けないで、がん患者にとって、もっと生きやすい世の中にしてほしい。
消費税は免除、電車やタクシーは半額、レストラン3割引!
がん患者特権を認めてほしい!!
ジストを患ってから、ずーっと叫び続けていることですが、実現まではまだまだ遠い道のりです。
最近は抗がん剤の副作用もあって、声を出すのもしんどい時がありますが、これからも、ずーっと叫び続けますよ。
お上に届くその日まで、めいっぱいしぶとく。」

【出典:『緩和ケア医 がんと生きる40の言葉』(大橋洋平著、双葉社刊)】

本当にそのような世の中を願うばかりですが、まだまだ時間はかかりそうです。となれば、「がんに罹患してしまったら、もう仕方ない」では済ませられないことも必然多くなってくるわけです。

配慮してもらえることはもちろん有り難いことです。ただ、罹患経験者自身、そこに甘えるばかりではなく、今の自分にできることはできる限りやりたいし、できることなら罹患前と同じようにやりたいと考えているものなんだということも知っていただきたいと思います。

(続く)