こんにちは、がんチャレンジャーの花木です。
ダイジェスト4回目は、宣告から2週間目の、遠隔転移に怯える日々についてご紹介します。
この時期も、精神的にかなり辛かったですね……。
◆ ◆ ◆
◆2017年11月27日(月)◆
社内で、上司に自分の意思を伝えた。
治療に専念すべく、今の仕事を少し早めに整理すること。気持ちをリセットすべく、これまでやってきた業務を、ひとつ残らずメンバーに託すこと。
最終的な結論は上司に委ねたものの、自分の意思は伝えきったつもりだ。
これで、自分としては思い残すことなく、仕事から手を引ける。
ずっと「一度引き受けたら最後までやりきる」というスタイルでやってきたのに、いまさら体優先って言われても頭はそう簡単についてこない。
休みに入るまでは、職場にいる以上、やはり全力でやらないと気が済まない自分がいる。
まあ、本音の部分はなかなか周りには理解されないが、それも仕方がない。個人的には、心労を最小限にするための意思表示だ。
そして、とにかく明日が、進行状態を調べるための精密検査だ。怖いし、不安だが、まずはスタートラインに立つしかない。怖いけど。
◆11月28日(火)◆
某病院で生体検査(組織診断)を受ける日。夜はまたも寝られず、寝汗をかいて何度か起きた。
朝、起きられず、食欲もあまりない。
やはり検査は嫌だと、体が訴えている。
妻と一緒に行く道すがらも口数は少ない。
検査、結果…。あと何回続くのだろう。
病院は思いのほか、敷居が低かった。さまざまな診療科目の人がいるからか。
眼科とかにかかる人ももちろん大変だろうけれど、腫瘍外来の自分ほどではないだろう、なんて自分本位なことを考える。
しばし名前が呼ばれるのを待ち、30分くらい経過しただろうか。ついに呼ばれる。
診察室のドアを開くと、比較的話しやすそうな先生。ちょっと安心。
早速、前の病院での内容を復唱させられ、ご自身の話す内容を整理する先生。
その後の触診と検診で、悪性であることはやはり疑いの余地はないとのこと。
「前の病院の誤診」という僅かな期待が奪い取られた瞬間…。
一方で、リンパ節転移こそあれ、咽頭自体はステージがまだ初期のものかもしれない、とガン宣告されて初めてと言っていいほどの希望がもたらされる。期待して裏切られるとショックも大きいが、そういうものにすがりたくなるほどに今は精神的にはきつい状態。
組織を取り、一旦は外に出て、採血等を行う。
また戻ってきて、今度は次の検査の手配。
僕の場合、すでにリンパに転移してきていることは確実なので、その他の臓器などに遠隔転移していないかを調べなければならない。
CT、MRI、PETとすべて別の日かつ別の機関で予約を取らないといけないということで、早々に手配が進んでいく。MRIに関しては当日18時半から近隣の機関で受けることになった。
妻には帰宅を促すも、今日は最後まで付き合うという。こんなに長く二人だけでいるなんて、子どもが生まれてからはなかったな。昔のように、あまり喋ることはなかったけど、なんだかタイムスリップしたような懐かしさがあった。
ほぼ丸一日を使った長い長い一日だった。
お迎えを含め、子供を預かってくれた奥さんの実家に今日も感謝。
◆11月29日(水)◆
「セカンドオピニオン」。直訳すると「第二の意見」。
つまり、主治医の意見が第一の意見であるのに対し、他の医師の意見を聞くこと。
今回は、会社の担当の方に相談し、この制度(福利厚生で社員も受けられる)を使って、主治医以外の方からも意見を聞くことを予め考えていた。
とはいえ、そんなことやったことないし、主治医の先生の気を悪くしたりしないだろうか。
そんな小さな悩みの数々を、会社の担当の方から、様々アドバイスをいただくことができている。
紹介状のもらい方や予約の取り方、セカンドオピニオンの際の話の聞き方など、さまざまなアドバイスをいただいている。
専門家の方とこうして親身に話せる場があるというのはとてもありがたい。
自分ががん患者になって思うこと。それは、周囲や自分がなんとなく焦り、急ぎ、それに対して病院側は一患者にそこまで対応する余裕もなく、いつの間にか心の拠り所がなくなってしまっていること。
一息つきたいのにつけない。立ち止まって整理したいのに許されない。さらに僕の場合は、進行性ということもあり、遅くなればなるほど転移が進んでしまうかもしれないという目に見えない恐怖。体の部位に少し違和感があるだけで、「まさか……」なんていちいち気になる。
そんな僕にとって、この担当の方との週2〜3時間の空間が、どれほど支えになっていることか。
もちろん、専門的なアドバイスは不可欠だ。これから治療をお願いする病院の信用度や設備などのことも知りたい。
加えて、「この人の言ってくれることなら信じられるし、家族にも提案できる」という信頼関係があることがとても大きい。
医療情報など、ネットのものも加えれば今やはいて捨てるほど存在する中、最終的にどの情報を選び取るかを決めるのは自分。でも、素人じゃどうやって選べばいいのか分からない。
そんなときこそ、「この人なら」という人を見極め、支えてもらうことが大切なんだと感じる。
また、この日は、人事担当の方にもお声掛けし、休職や今後の手続きについて相談。休職なんてしたことないので、ドキドキした。
休職申請の方法、健保からの傷病手当金申請の方法(給料の3分の2以上が補填されるありがたい仕組み)、さらに勤務先には、「がん治療休暇」なるものまであり、このあたりが、病気になってしまったという心苦しさを幾分和らげてくれる。
あー、またきっちり治して戻ってきていいんだ、と。
夜は妻と、セカンドオピニオンの進め方について話す。でも、やはり焦りがあるのか、何となく忙しない。
◆11月30日(木)◆
朝は普通に出社。今日は少しばかり仕事が捗った。
現業の仕事、引き継ぎ準備、治療準備のための通院、そのための情報収集。
職場にいても何かと慌ただしい。でも、時に少しだけ病のことを忘れられたりもするありがたい時間。
しかし、この日は妻から11時頃連絡があり、急遽病院に電話をすることになり、忙しなくなる。
自分なりに、流行る気持ちを抑えながら進めているものの、周りがこうなるとちょっと落ち着かない。
なんとか病院から他医院向けのセカンドオピニオン用の紹介状をもらう交渉には成功し、昼はPETという検査を受ける。この日は、検査のため、昼ご飯を食べることができないのが辛い。
そして約3時間。うち2時間が薬剤投入後の休息ということで、なんとなくぼーっとして過ごす。
検査は、仰向けになり、頭にヘルメットみたいなのを被せられ、機械に通されていく、「あー、こういうのは入りたくないなー」という感じのやつだったが、いざ自分が入る方だと意外に気にならないかも。
とにかくこの検査で、遠隔転移の有無がだいたい分かる。
ここまではとにかく最悪のシナリオをひた走ってはいるが、せめて最後は希望がほしい。
でも、期待もしちゃいけないし…。
暗いトンネルのど真ん中。出口はまだまだ見えない。
とりあえず、今日のところは…ということで、自分へのご褒美で、デニーズに入り、一人ガトーショコラを頬張った。
◆12月1日(金)◆
月をまたぎ師走。なんだかあっという間に今年が終わってしまいそうだ。
目処がついていればいいが、まだまだ不確定要素が多い。
今日はCTを受けるためにまた元の病院へ。
なんとなく検査にも慣れてきた。
その後、午後出社まで時間があったので、何気なく目に止まった病院内の「がん相談支援センター」に出向き、セカンドオピニオンの相談と、会社に出す確定診断書の相談をする。
とても緩やかな時間が流れ、担当の方も時間をかけて聞いてくれ、ちょっとだけ安心する。
そして、スタッフの方の対応のおかげで、確定診断が出るまで無理だと思っていた他医院へのセカンドオピニオンの予約をなんとか取り付けることができた。
スタッフの方と二人でガッツポーズ! 久々に希望が生まれた瞬間だった。
それにしても、病気というのは辛い。
会社にいても、家に帰っても、常に不安がつきまとう。仕事のことは、家に帰ればとりあえず気を紛らわすことができるし、逆もそう。
でも、病気って、ずっと背後霊のように付きまとってきて、何かしてても、自分の小さな隙を狙って、不安に引き込もうとする。
でも、そんな自分に負けないよう、昨日から、復帰後の自分をイメージできるよう、社内の何人かに宣言をし始めた。
コソコソと闘病するのではなく、堂々とこれまで同様メッセージを伝え続ける。
そんな希望を抱き、いつも通り、日々を全力でやっていくほうが自分らしい。
辛いときは止まればいい。今度こそ止まればいい。でも、後は今まで通り。
それでいこう。
◆12月2日(土)◆
一ヶ月前、まさか翌月にがん患者となっているなんて思いもしなかったときに予約したチケット。
当日までどうするか悩んだが、結局快晴ということもあり行くことにした。
Jリーグ、柏レイソルの今シーズン最終戦。
長男と二人。妻にスタジアムまで送ってもらい、観戦が実現した。
自由席にふた席を確保し、出店でご飯を買う。長男が気を利かせて、「お父さんの好きなハイボールとかあるよ」とか言ってくれるのが、なんだか切ない。
今シーズンは、すでに2試合息子と観戦していたのだが、いずれもお酒を飲みながらの観戦だったことを彼は覚えていたのだ。
さすがに、がんが見つかってからは、お酒を飲んでいない。主治医は、缶ビール1本くらいは大丈夫でしょう、と言ってくれているが(そう、がんでもタバコ以外は結構OKなんです)、もともと酒が好きだが弱い自分は、ここはセーブする。
ノンアルコールビールでご飯を流し込み、応援開始。
タイトルのかかっていない消化試合ではあるが、プロはモチベーションを保ち続けている。そして、時折、気持のこもったプレーを見せる。やはり、最後は「気持ち」だよな。勝ちたい気持ちが強いほうが、その準備をしっかりし、実力以上のプレーを可能にする。
そんなことを、冬晴れのスタジアムに思った。
◆12月3日(日)◆
子どもたちが、目の前でスーファミミニというテレビゲームで遊んでいる。
高い倍率をくぐり抜けて、発売日当日に手に入れたものだ。あのときにすべての運を使ってしまったのだろうか…。
※発売日当日に手に入れたスーファミ
ふと目を画面に向けると、ゲーム進行のステータスを意味する「ステージ○」という表示が出てきて、ドキッとする。
やはり週明けの結果が気になっている。
いよいよ明後日が確定診断。遠隔転移があれば間違いなくステージ4(の悪い方)の危険な症状だが、そうでなくてもすでにリンパ転移があるので、ステージ3以上は確実。その審判がくだされるのだ。
午前中は、義理の父母のところへ招かれる。不安はないか、できることはないか。親身に話を聞いてくれた。
幸い、会社の支援もあり、情報面は大丈夫そう。強いて言えば、妻や子どもたちのケアをお願いしたい。
当事者となってから、視野が狭くなり、人に気を遣えていないと感じる。
余裕がないというか、これまで返せていた返事が返せなかったり。
このあたりの気になるところを伝えた。あとはいつも通り。今まで通り。
昼は少し子どもたちと公園でサッカーをして、リフレッシュ。まだまだボールだって蹴れる、大丈夫なはずだ。でも疲れたな。
(続く)