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『 Io voglio solamente la lingua 』 2
「何言って………」
「だってっ!!!」
「ヒョンはいつも『だって』って言うね。」
勢いであげた僕の顔。
その僕を悲しげに見つめてからキボムは微笑んだ。
「あのさ……一度くらいヒョンの言葉で、言って欲しいよ。」
僕はキボムの意図が分からなくって何も言えない。
「いつも僕が言って、その言葉をヒョンが『だって』って否定する。
ねえ、寂しいって思うのは僕だけかな。」
「……」
「僕はヒョンのことを嫌いにもなってない。
むしろ逆かな……。
ひと月の間ずっと待ってた。
………連絡してきてくれるの。
連絡するのはいつも僕から……
環境が変わったヒョンはどうなのか分からなくって、
じつはためらいながらいつも連絡してるんだよ。」
知ってる?と表情で僕に伝えながら、言葉を続けた。
「ねえ…泣かないでよ。
僕がヒョンをいじめてるみたいじゃない……。
泣かなくてもいいよ。
ヒョンと僕の思いが違っても、僕はヒョンを愛してる。
あの日の約束をたとえヒョンが忘れてしまっていてもね。」
僕は何を約束したのだろうか。
キボムの優しい笑顔がじわりとにじんでゆく。
「ほら泣かないで。
僕との約束はもう忘れていていいよ。
たいしたことじゃないんだもの。」
ダメだよ……
きっとダメなんだ。
忘れるなんて……。
どんな些細なことだったとしても、悲しませている僕が許せないから。
「教えて……僕は何を約束したの?」
「小さなことだから……
もう忘れて。
こだわった僕が悪かったから。」
どんな小さな事だって約束は約束だから……僕だって約束を誰かに忘れられたら悲しいから。
首を横にふって、教えて欲しいと訴える。
「ダメ。
教えて。ちゃんと。」
長くなった髪が以前のように乾いた音を立てるようになった。
だけど以前の僕とはいまは立場が違う。
「ヒョンとの約束は……もう時効になっちゃったから……。」
時計を指さされて、首をひねる。
今は夜中の12時を過ぎた……ところだよ。
「ホワイトデーにヒョンから言ってもらいたかっただけ。
昨日じゃなきゃだめなんだ。」
「………」
僕は取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
恋人を悲しませるだなんて……。
「ヒョンは僕を愛してる?」
「………」
どうしてそんな風に悲しそうに言うのだろう。
少し細めた目が大人びた憂いをたたえている。
じっとその表情を見つめていたら、
「ね……いつも僕ばっかりだ……。
ごめん……
さあ、送っていくよ。
外は寒いからちゃんとマフラーも巻いて。」
悲しげなつぶやきと、謝罪の言葉を言ってからつづく言葉は、明るく笑って見せた。
僕はその瞬間に思いだした。
別れ際に言われたあの日の言葉。
『僕にも言葉を頂戴。
たった1回でいいから。
僕が思うほどに思ってくれるなら
来月この日に。』
つづく
