自分の書いた詞の中で、実在する地名として登場するのは“新宿”だけかもしれない。十代の頃から何かと因縁のある街だ。二度と歩きたくないような通りがいくつかある。そしてその通りを平然と歩くことで、わたしは何かを征服したような気になっている。
 
 
 
昨夜、DC/PRGのライヴを観てきた。敬愛なる菊地成孔さん(わたしは、彼と、絶対に一緒に仕事をするべきだと思っている。がんばる)率いるビックバンド。毎回、新宿歌舞伎町のライヴハウスで観ている。ポリリズムと変拍子の渦に飲まれ、踊ることしか出来なくなる恍惚の時間。訳がわからなくなることを愛する瞬間。自分を解放して、安心してやばくなれる無二の居場所。そこには易しさなんてなくて、完膚なきまでに叩きのめしてくれる容赦ない優しさだけがある。完璧にやってくれること、それはサービス精神だし、誠実さだし、つまりは愛だと思う。一晩明けた今でもまだベースのうねりが感触として身体に残っている。要約すると、死ぬほど気持ちよかった、ということ。
 
 
 
3時間ひたすら踊ったあと、余韻に浸りながらふらふらと歌舞伎町の外れを散策した。通りすがりの花屋で薔薇の花を一本求め、振り回しながら歩く。すれ違う人の大半はおそらく本名で仕事をしない人達だろう。業種こそ違うもののわたしもその一人だと思うと、変に敬虔な気持ちにさえなりかけた。うやうやしく下卑たネオンが連なる街には、日付が変わる時間になってもまだ夜が来ないようだった。或いはずっと終わらない夜が続いているようだった。どちらにしても、同じことだと思った。
 
 
 
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