受精卵ワールド

本山聖子 光文社 2023年8月


 





不妊治療クリニックで胚培養士として働く長谷川幸、32歳。子供の頃から虫メガネにはまり、小さな世界、そこに息づく命に魅了されてきた。受精卵と向き合い、命の誕生を願うこの仕事を天職だと思っているが、実は幸自身も出生に秘密を抱えていた。4組に1組が不妊治療をし、14人に1人が体外受精で生まれる世界に揺蕩う、報われない挑戦、人生の選択、それぞれの幸せ。生殖医療にかかわる人間たちの葛藤と希望を描く書下ろし長編。





顕微鏡でみる小さな世界が好きで、胚培養士となり、不妊治療クリニックで働く長谷川幸。


受精卵と向き合う仕事は、天職だが、

新人の指導係として悩み、患者さんへの説明に心を痛める……





我が子がいることだけが幸せってわけでもないけど、我が子を欲しいけれど、恵まれないと願う親は少なくない。



高い費用を使って不妊治療しても、すぐに子どもに恵まれるわけではない。

いつできるかもわからない不安。


結婚して早く子どもを望む親からのプレッシャー。


子どもができないのは、女性の方に問題があるという間違った考え。


やめる時期が決まっていればいいのに。という患者の声に、苦痛が続く長い日々を感じた。


不妊治療が 苦難の道であることは、知っていたが、より深く知ることになる。


学生の時、人助けになるからと、精子提供。

人助けの軽い気持ちで行っただけだろうが、

そこから生まれた子どもの立場になって考えてみたことはあるのか。


いろいろ考えさせられる。



幸は、自分の出生の秘密に悩む。

そして、自分の行っている仕事には対しても、

自然着床ではなく、ひとの手を加えて妊娠させる ことは、神の領域なのか?悩む。


〈すぐに答えが出ないときは、一旦悩むのをやめる。未来の自分が解決してくれると信じて、今はただ目の前のことに集中する。〉


幸は、まわりの人たちに支えられ、 自分の仕事をまじめに行っていくのがよい。



生まれてきたこと自体、奇跡に感じる。

子どもがいる、いないにかかわらず、自分なりの幸せを 見つけてほしい。




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