谷瑞恵 新潮社 2018年2月



 

 

彼女は額装師。手放せない想いに、ふさわしい居場所をつくるひと。『思い出のとき修理します』著者最新刊。事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。彼女の元には一見額装不可能で、いわくありげな依頼ばかりやってくる。ヤドリギの枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット――。依頼人の心に寄り添い、時にその秘密を暴いてしまう夏樹。表具額縁店の次男坊・久遠純は、夏樹の作品の持つ独特な雰囲気に惹かれ、彼女自身にも興味を持つが。



額装飾とは、絵画や写真だけでなく、立体的なものに額縁を作ることもある。

立体的なので、額を飾る場所も無視できず、部屋の雰囲気、インテリアと調和するように考え、中身を保存に適して額装依頼人が望む場所へ飾るまでが仕事。
そのために、額装飾は、依頼人の心の奥を覗くことになるかもしれない。

「小鳥の声」なんて依頼があったけど、そんな見えないものまで額装できるのか疑問だったけど、出来上がったものは、見事だった。
他にも、宿り木の枝、毛糸玉、カレーポットなどの依頼があるが、それぞれにその人の人生に触れることになる。


この額を作るのは、婚約者を事故で亡くした夏樹。
婚約者がこの額装飾の仕事をしていたので、引き継いだ。
この夏樹の苦悩。

夏樹が通うカレー屋の店主・池畠。
表具額装店の次男坊・久遠純。
彼らも、過去にとらわれていた。

この三人の過去は、絡み合っている。
額装の話と共に、三人の関係も紐解いていく。
重い過去であるが、これから、少しずつでも前向きになれたらいいと思う。


夏樹が作る額縁は、素敵だと思った。
婚約者の後を継ぐのではなく、自分の仕事として、額装飾になれることを願う。

お気に入り度★★★★