藤岡陽子 集英社 2020年10月







三十三歳の遼賀が受けた胃がん宣告。どうして自分が…涙が溢れてきて、恐怖で震えが止まらない。その時、郷里の岡山にいる弟の恭平から荷物が届く。入っていたのは、十五歳の頃、恭平と山で遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴。それを見た遼賀は思い出す。あの日のおれは、生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった―。心揺さぶられる感動長編。


ガン宣告を受けた遼賀は、家族(弟の恭平、母、祖母)や同級生であり看護士の矢田らに支えられ、闘病生活を送る様子が描かれている。

ひとり、東京で働いている遼賀は、ガン宣告を受けた時、
電話をかける相手が思い浮かばず、弟の恭平に電話。
すぐに病気のことは、うち明けられずにいたが、
恭平は、遼賀の突然の電話におかしいと感じたのは、兄弟だからか。

そして、検査入院の時に、郷里の岡山からかけつけてくれる。
母は、手術の時、付き添う。
祖母は、今まで「家を離れるくらいなら、死んだほうがまし、施設だけはかんにんしてくれ。」と言っていたのに、「あたしを施設に入れてくれんか。自分の世話はもういい、遼賀についてやれ。東京に行け。」と言ったという。

家族が、遼賀のことを大切に思っているのがよくわかる。

15歳の時、山で遭難した時のことや
高校生の頃、笹本ツインズと言われていたが、実は双子ではないという出生のことなどのエピソードが、この物語に深みを与えている。

遼賀は、恭平といっしょに少年野球に入っても、恭平と違い、一度もレギュラーになることはなかった。
何かのクラブに入り、頑張っていたわけでもなかった。
しかし、<人のいないところで活躍する人>
自分のことより、まわりの人のことを気遣う人なのだ。

高校の同級生の矢田と再開できたことは、よかったと思った。
看護士として支えてくれるのはもちろんだけど、
この時をいっしょに過ごしたことに意味があったと。



優しさのあふれる物語だ。

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