上橋 菜穂子
神の守り人<来訪編>

『神の守り人(来訪編)』


バルサ再登場。今回はタンダも一緒に行動する。
いい雰囲気の所もあったがそこは児童書。そつなく削られて残念…。


虐げられた子供を見て自らのトラウマが噴出するバルサ。
だがその少女はただの子供ではなかった。
チャグムの場合とは似て異なるが、身の中に何かを抱く。それも邪悪な何かを。


それでもバルサは放っておけなかった。
どんなに危険な追っ手が差し向けられても
不条理に殺されようとする少女を連れて過酷な逃亡の旅に出る。

バルサは用心棒生活が骨身にしみて、もう抜けられないのだろうか。
なぜ危険を冒してまでも少女を助けようとするのか。
自分を重ねてしまうのだろうか。
少女を助けられたら、自分の中で燻る怒りも少しだけ昇華できると思うのだろうか。


前作とは違い、バルサの攻撃よりも防御の技術に驚かされる。
目に見える攻撃だけが攻撃ではないのだ。
作者の描写に感嘆する。


上橋 菜穂子
神の守り人<帰還編>

『神の守り人(帰還編)』


シリーズを通して必ず登場する異界。
私たちには世界はひとつしか見えないが、世界はひとつではない。
作者は何を問いかけているのだろうか。


バルサが助けようとしている少女の身体に「いるもの」の怖ろしい正体。
それをめぐり秘密裏に動く者たちの暗躍。
少女を利用しようとしてバルサを欺く者は、汚い手段を使う。

裏切りの果てに深い痛手を負うバルサ。
だが諦めない。彼女は最後まで諦めない。…ジグロの教えに添って。
バルサはいつまでも亡き養父ジグロとともに生きていることを実感し、泣けてくる。


少女も必死に闘う。自分の中の怒りと「怖ろしいもの」を相手に。
バルサとの逃亡生活の中で少女は強くなった。 しかし…。


ラストシーンは挿絵もあるけれど、心の中に自分なりの映像が浮かんでくる。
少女を抱き、春ののどかな野に座るバルサ。
バルサは少女に言い聞かせながら、少女時代の自分自身へも語りかける。

誰かを救い、自分を救う。これがシリーズの一貫したテーマだ。

静かなハッピーエンドだ。


060609

J. K. ローリング, J. K. Rowling, 松岡 佑子
ハリー・ポッターと謎のプリンス ハリー・ポッターシリーズ第六巻 上下巻2冊セット (6)

●一日目:Amazon予約で、発売日の午前中に配達してくれた。
午後、上巻を読み終えた。
前作のハリーのイライラ、イガイガさが驚くほど影をひそめた。
今度はロン&ハーが恋愛をめぐって険悪に。
心安らいだのは本に入り込んで首を絞めたくなるようなキャラが出てこなかったこと。
その代わり恋愛シーンがやけに多いので気恥ずかしかった。

●二日目:午前中に下巻を読み終えた。
またしても号泣号泣号泣…。
今度はネタバレスレを読まなかったので予想は的中。
が、今回はそのことだけに囚われないで読後感を味わえた。
もちろん「面白かった」ですむものではないのだが…。
松岡さんの文章の雰囲気が変わった。叩かれたから?
だとしたら少し落胆。下手でも(失礼)最初の方が「読ませる文章」だと思う。
クールな表現にあまり感情移入できなかった。
ハリーの年齢が上がったことに比例させたのか?
私が前作のショックから立ち直りきれていないからなのか。
いや、今回は原作者に問題があったのではないか。
豊富なエピソードをたった2巻にまとめるには勿体無かった。
(「妄想族」なら自分で文章を作って楽しむことができるだろうけど)
もっと長く、ふくらませて書き上げてもよかったと思う。
最終章、前回とはまた違った足元のぐらつきを覚えた。
それは喪失感からくるものではない。物語の大いなる変化に対してだ。
ぐらつき感に反して、温もりも。初巻の「賢者の石」が示唆したものだ。
どんなに問題が展開しても、大切なものは最初に書いてあったものに尽きる。
最終巻では、私はもう誰が死んでしまっても驚きはしないだろう。
ハリポの「ファンタジーショータイム」は終った。
あとは…そう、例えるならお骨を拾う作業のような…弔うことのような。
(多分、華々しい完結オメデトウ!ムードにはならないと思う)

そんな侘しさを携えてその日がやって来るのを待っていよう。

20060518 初回感想
上橋 菜穂子, 二木 真希子
闇の守り人

守り人シリーズ第二弾。
この巻はバルサの魅力があふれている。
鍛え抜かれた頭脳と肉体と経験を生かした、状況に応じての戦闘パターン。
賢く強くたくましくカッコイイ。そうカッコイイのだ。


カッコイイと口では気楽に言えるが、バルサの苦労は人並みではない。
強くたくましくなったのも、彼女が望んだわけではない。
バルサの秘密がこの本の中にある。いわばバルサの攻略本。


魅力あるヒロインとはいえ、あまりにも哀しく惨い記憶が彼女を支配しているので
感想を書くために読み返すのがためらわれた。
しかしどうだろう、読み始めたら最後、何度でも物語に引き込まれてしまう。


バルサは関わってしまった弱い者を見捨てることはできない。
そこが魅力でもあり弱点だ。大変なトラブルを招くから。
この巻でもバルサはやってしまいました…。


過去に決着をつける結果となってしまった旅。
バルサは闇の中で養父ジグロに再会する。
そして殺すか殺されるかの過酷な闘いに身を投じる。
どんなに悲しく、身体より心が傷つき痛みをともなう闘いだったことだろうか。
舞いと称される槍の闘い。「舞い」は闇の中では特別な意味を持つ。
その槍舞いのシーンは、一生心に残るだろう。
読んでいる間も読み終わっても涙が止まらなかった。


精霊を崇拝する世界では、人々は自然を敬いつつましく暮らす。
身分を分けられてはいても、命に重いも軽いもない。
命を軽くあしらった者へ闇はその槍を向け、倒し、心を闇にする。


しかしいくら汚いやり方で人を騙し煽る人物も、心に傷を持っていたり
復讐するつもりで闘っても、それでは何も得られないということを知ったり…
人の魂は何によって癒されるのか。


これはとても深い内容の物語だから感想を書きにくい。
児童書としては重い。ある程度の経験を積んだ年齢になったら読む方がいい。
闇の守り人の本質を理解し、彼らを鎮魂するためにも。


060512

上橋 菜穂子, 二木 真希子
夢の守り人

守り人シリーズ第三弾。
読んでいて涙腺が刺激されることが多く、ティッシュが離せなかった。


人の見る夢と花の見る夢。
現実世界(サグ)と対を成すもうひとつの世界(ナユグ)に「花の夜」が訪れた。
二つの世界を結ぶ、花が受粉するために必要な「夢」を誘う季節。
ところがある邪な想いを持つ者の夢が、夢に留まりたいと願う者を繋ぎとめてしまう。


生命の危機に陥った彼らを助けるために、タンダは夢に入り込む。
呪術師としてはまだ力の拙いタンダは、魂は守れたが身体は乗っ取られて、
現実の世界では魔物「花守り」にされてしまった。

花の夢の中で囚われていた探し人の姪と、あろうことかチャグムを見つける。
夢の中での再会。チャグムの夢はシリーズ第一話での逃亡生活の中での、
バルサやタンダやトロガイ師とのひと時のやすらぎの時間だった。
私もタンダ同様、ここでは胸が詰まった。


チャグムは帝になるという運命を選んだはずだった。
しかし窓から吹き込む風のない生活で心は萎えていき、ついに夢に囚われたのだ。
タンダはチャグムを夢から解放しようと試みる。

タンダとバルサは今も自分を本当の息子のように愛してくれている…
その想いがチャグムを強く羽ばたかせた。


星読みのシュガ、バルサと敵対しながらも協力する狩人たちの奮闘。
そしてぬるい夢から覚醒し、肝の据わったチャグムの活躍。
バルサ、トロガイ師、それぞれの強い想いが、タンダを花の夢から取り戻そうとする。
同時に「木霊の想い人」ユグノの生命を守りつつ。
(ユグノは花の夜にとってなくてはならない夢を誘うための歌声を持つ者であり…?)


生命は受け継がれてゆくもの。気の遠くなるような長い年月。
「ひとつの輪の終わりは、もうひとつの輪のはじまりなのさ」(トロガイ師)


たくさんの選択肢があって人は選びながら生きていく。
私は、自らの選択を後悔して前に進めなくなってしまって夢に囚われて、
出られなくなる人の気持ちが分からないでもない。
抗えない運命を嘆く気持ちも、恨んだり妬んだりする気持ちも…。

タンダはチャグムに言った「夢にしがみついて眠ってる自分が好きかい?」


分かれ道ではどちらの道を歩むのが「好きな自分」の姿なのか?
私の、なりたかった自分、「好きな私」はいったいどんな姿だったのだろう。
夢の守り人、忘れ去った私の姿を思い出させてほしい。


060511

上橋 菜穂子, 二木 真希子
精霊の守り人

私にとってオタク系No.1のネット友に薦められた「守り人シリーズ」第一弾。
流石である。その人のチョイスに間違いはない。完全に虜になってしまった。
最初はこの作品を攻殻のIGがアニメ化するということに惹かれたが
読み進むうちに、そんなことには関係なく引き込まれていることに気づく。


こんなファンタジーが日本に存在していたなんて!!


主人公バルサの強さに惚れる。
凄まじい生い立ちから得た、戦闘能力…生きる力、生への執着心。
しかし彼女の凄まじい佇まいだけが目立つ物語ではない。
彼女に関わった者達を巻き込んで物語は進むのだが、とてもよくまとまっている。


100年に一度の習わしという、水の精霊に卵を産み付けられた少年チャグム。
彼は新ヨゴ皇国の第二皇子。
少年が体内に「卵を産み付けられる」というエグい状況には最初は抵抗があった。
しかし精霊の卵には人間界に影響を及ぼす大きな意味を持っていた。
卵を抱いたために、命を狙われ運命に弄ばれることになるチャグムだが
バルサが彼の用心棒として一緒に旅をし、彼の命を守り抜き、
やがて卵を産み、旅が終わる頃には一人前の男としての成長を遂げる。


人間には見えない精霊の世界。この世に生きるのは人間だけではない。
精霊はこの世を支えている。精霊の守り人は二つの世界を繋ぐ。
もしや私たちの住むこの現実も、「精霊の守り人」が守ってきたのではないだろうか。


児童文学として分類されるこの本だが、大人にも読み応え充分である。
大人の純愛も存在するし、抗えない運命を背負うものの心情も描かれる。
人生の苦難を背負った人に、是非お薦めしたいと思う。
憎しみや苦痛が昇華されていくあたりの描写は、癒し本よりも効果があるかも。


この本のもう一つの大きな魅力は、出てくる食べ物がおいしそうなこと!
食いしん坊にもお薦めしたい。(まるで「大草原の小さな家」みたい…)
アニメ化に関しても、この食べ物の描写は省略しないでほしいと願う!!


060510