「ねえ、ぼくたちはこうして同じ引き出しの中にいるのだから、仲良くしようね」
コマがマリに言いましたが、でも、おしゃれな服を着て気取っているマリは、
「ふん!」
と、横を向いて、返事をしようともしません。
次の日、持ち主の坊ちゃんが、コマに赤と黄色できれいな色をぬりました。
「さあ、マリさん、ぼくを見てください」
コマはマリに、きれいになった自分を見せました。
「どうです、これならあなたとお友だちになっても、はずかしくないでしょう」
「ふん!」
マリは鼻で笑うと、コマに言いました。
「わたしは、あなたとなんか友だちにはならないわ。
なにしろわたしは、ツバメさんとお友だちになるつもりなんですからね。
空を飛ぶツバメさんは、なんてすてきなんでしょう。
土の上をコロコロ回っているあなたなんかと、遊んでいるひまはないのよ」
「・・・・・・」
コマは、なにも言う事が出来ませんでした。
ある日の事、コマは土の上でクルクルと回りながら、小鳥のように空へ飛び上がっていくマリを見ました。
マリは得意そうに、何度も何度も空へ飛び上がりました。
でも何回目かに飛び上がったマリは、それっきり帰ってはきませんでした。
「マリがないわ。マリがなくなったわ」
おじょうさんがマリを探しましたが、マリはどうしても見つかりません。
(マリはきっと、ツバメと一緒にどこかへ行ったんだ)
コマは、そう思いました。
それから、ちょうど一年がたちました。
お父さんに金色の粉をもらった坊ちゃんは、コマを金色にぬりました。
金色になったコマはうれしくて、ブンブンとうなりをたてて回っているうちに、ゴミための中へ飛び込みました。
「あっ! コマがどこかへいった」
坊ちゃんはコマ探しましたが、ゴミためのコマを見つける事は出来ませんでした。
「ああ、どうしよう? それにしても、ここはとってもくさいな」
コマのまわりには、くさった野菜や果物の皮などがゴミと一緒にすててありました。
その中にくさったリンゴのような、丸い変な物がありました。
「何だろう? ・・・あっ、マリさん!?」
よく見るとそれは前に同じ引き出しにいた、あのマリではありませんか。
雨にぬれてボロボロになった姿は、まるでもとのおもかげはありません。
「マリさん、いったい、どうしたのです?」
コマが聞くと、マリは恥ずかしそうに答えました。
「あの日、屋根のといに引っかかって、一年たつうちに、こんなに姿になってしまいました。・・・コマさん、これからは仲良くしてくださいね」
けれどその時、ゴミをすてにきたお手伝いさんが、落ちていたコマとマリを見つけました。
「あら、坊ちゃんの金のコマだわ」
お手伝いさんはそう言って、転がっていたコマをひろいあげました。
「あの、わたしもいますよ。わたしもいますってば」
マリは一生懸命に叫びましたが、お手伝いさんはくさったリンゴのようなマリには見向きもしないで、さっさと行ってしまいました。
おしまい