むかしむかし、ある村に、ディエロという若者がいました。
ある日のこと、町へ出かけることになったお母さんが、ディエロにいいました。
「ディエロや、ニワトリが小屋から出ないように、ちゃんと見はっていておくれ。そうしないと、タマゴをかえさないからね」
「うん、見はっているよ」
「それから、とだなの中のツボには、どくがはいっているんだからね。うっかりなめたら死んでしまうよ」
ツボの中にはいっているのはどくなんかではなく、本当はおいしいジャムだったのですが、るすのあいだにディエロがなめてしまうといけないので、お母さんはそういったのです。
「わかったよ。なめやしないよ」
ディエロがそうこたえると、お母さんはあんしんして出かけていきました。
そのあとディエロは、いいつけられたとおり、ニワトリ小屋をジッと見はっていました。
でもそのうちに、ディエロはがまんできないほどねむくなってきました。
そしていつのまにか、ニワトリ小屋によりかかって、ウトウトとねむりこんでしまったのです。
どれくらいすぎてからか、ディエロがふと目をさますと、ニワトリが小屋から出て、にわをあるきまわっているではありませんか。
「たいへんだ! こらっ、はいれ、はいれ」
ディエロはあわてておっかけまわしましたが、ニワトリはにげまわって、小屋へはいろうとしません。
「もう、おこったぞ!」
すっかりはらをたてたディエロは、ぼうきれをひろいあげると、それをニワトリになげつけました。
「クー、ククウ・・・」
なんと、ニワトリはひっくりかえると、そのまましんでしまったのです。
「たっ、たいへんだー! ニワトリがしんでしまったぞ! どうしよう・・・」
ディエロはしばらく、かんがえこんでいましたが、
「そうだ! おれがニワトリのかわりにタマゴをあたためてやろう!」
ディエロは小屋へはいると、ニワトリのまねをしてタマゴの上にすわりました。
すると、
「グシャ、グシャグシャ」
と、タマゴはみんなつぶれてしまったのです。
「ああっ! タマゴがグシャグシャだ! お母さんがかえってきたら、どんなにしかられるだろう!」
ディエロは、大声をあげてなきだしてしまいました。
でもあんまりないたので、おなかがすいてきました。
そこでニワトリのはねをむしりとって、だんろの火でやいてたべることにしました。
「そうだ! 食事のときはブドウ酒もいるぞ」
ディエロはブドウ酒がおいてある地下室へおりていき、タルのブドウ酒をツボにいれはじめました。
すると上のへやで、ドタバタと、さわがしい音がします。
「なんだろう? だれもいないはずなのに」
ふしぎにおもって、ディエロがへやへかけもどってみますと、なんと二匹のネコが、ニワトリのとりあいをしているではありませんか。
「こらあっ、ドロボウネコめ!」
ディエロはネコをおっぱらい、やっとのことでニワトリをとりかえしました。
「よしよし、これで大丈夫だ。・・・ああ! ブドウ酒のタルのせんを開けたままだった!」
ディエロがあわてて地下室にもどりましたが、ブドウ酒はすっかりながれでてしまっていたのです。
「どうしょう! お母さんがかえってきたら、どんなにしかられるだろう! いくらおわびをいっても、ゆるしてはくれないだろうな。・・・いっそ、そのまえに死んでしまったほうがいい。・・・でもどうやって、死ねばいいのだろう?」
そこでディエロは、とだなの中のツボにはどくがはいっていると、お母さんにいわれたことをおもいだしました。
ディエロはとだなからツボをとりだすと、中に手をつっこんでそのどくをなめました。
「あれ? このどくは、あまくておいしいぞ」
ディエロはむちゅうになって、ツボの中のジャムをすっかりなめてしまいました。
すると、なんだかねむくなってきました。
ディエロは、どくがきいてきて、もうすぐ死ぬのだとおもいました。
そこで、おしいれの中にもぐりこんでよこになり、そのままグッスリとねむってしまったのです。
お母さんがかえってきたのは、それからまもなくのことです。
「ディエロ。ちゃんと、留守番していたかい?」
そう声をかけようとして、あたりを見まわしたお母さんはビックリ。
とり小屋は空っぽで、タマゴはみんなつぶれています。
地下室におりてみると、ゆかがブドウ酒で水びたしです。
「これはどうしたことだい! ディエロや、どこにいるの?」
お母さんのさけび声をきいて、ディエロがおしいれから出てきました。
「ああ、お母さん。おれはもう死んでしまったんだよ。おれはもう、お母さんとはなしもできなくなったんだよ」
ディエロはからになったジャムのツボをかかえて、シクシクとなき声をあげます。
「・・・・・・」
お母さんのほうは、あまりのことにあきれかえり、もうディエロをしかる声もでなくなっていました。