むかしむかし、仕事で都へ行くだんなに奥さんが、
「お土産に、象牙のくしを買ってきてくださいな」
と、頼みました。
「ああ、いいよ。それで、どんな形のがいいかい?」
「そうねえ。あんな形がいいわ」
ちょうど空に出ていた三日月を指さして、奥さんが言いました。
「わかった。お月さんの形がいいんだな」
さて、都での仕事が終わっただんなは、奥さんに頼まれた事を思い出しました。
空を見上げると、まん丸い月が出ていました。
「確か、あの形の物だったな」
だんなはくしということを忘れて、丸い月の形をしたかがみを奥さんのおみやげに買いました。
かがみを見た奥さんは、
「くしを買わずに、どうしてこんな女を買ってきたの!」
と、カンカンに怒り出しました。
実はこの頃、かがみは大変珍しい品物で、この地方の人はかがみを知りませんでした。
初めてかがみを見た奥さんは、かがみにうつった自分を見て、だれかが入っていると勘違いしたのです。
「なにを言う、おれはお前の言っていた物を買ってきてやったんだぞ!」
とうとう夫婦げんかになったので、おばあさんが止めに入り、そして原因のかがみを見て言いました。
「おやまあ、どうして、こんなババアを買ってきたんだい!」
大騒ぎになったので、役人がやってきました。
そして役人は、かがみを見て言いました。
「わざわざおれが来てやったのに、どうして他の役人を呼んだんだ。けしからん!」
「役人? 違う違う、それは月の形をした土産だ!」
「うそよ! 女を買ってきたのよ!」
「何をいっているんだい。それはババアだよ!」
騒ぎは収まるどころか大きくなる一方で、とうとう裁判になりました。
裁判官が、問題のかがみを見て言いました。
「わしの他に裁判官がいるとは、まったくけしからん!」
この騒ぎ、いつになったら終わるのでしょうね。