「さすがはお竹さんの笛じゃ」
「まったく、いつ聞いてもよい音じゃ」
お竹さんとは、西山村の村役人の松見半太夫(まつみはんだゆう)の一人娘です。
ある夏の夕暮れ、お竹さんが笛を吹きながら山道を歩いて行くと、一人の美しい若者が、林の中からお竹さんの笛の音をじっと聞いていたのです。
(なんて、すばらしい殿方かしら)
それからというものお竹さんは、この美しい若者に想いを寄せて、毎夜、笛を吹いて歩き、二人はいつしか、恋仲になったのです。
しかしある日の事、夜に笛を吹きに行ったお竹さんが、帰ってこなかったのです。
心配した父親の半太夫は、村人たちと共に何日も山中を捜し歩きました。
そして頂上近くの竜頭岩(りゅうとうがん)の上に、二人がしっかりと抱き合っている姿を見つけたのです。
そこで一緒に来ていた修験者(しゅげんしゃ)の一人が呪文を唱えると、若者は一匹の大蛇となって森の中に消えました。
こうしてお竹さんは助けられたのですが、大蛇になった若者に会えない悲しみから病気になり、そのまま死んでしまったのです。
さて、その時から二人がいた竜頭岩を叩くと、
♪タンタン、タケジョ
♪タンタン、タケジョ
と、鳴るようになったのです。
それで土地の人は今でも、竜頭岩の事を『タンタン、タケジョ』と、呼んでいるそうです。
おしまい