むかしむかし、神さまが作ったばかりの人間は、動物と同じように全身毛だらけで、互いに戦って勝った者が負けた者を食べるという、野蛮な生活をしていました。
「せっかく人間を作ったのに、これでは動物と変わらないではないか。いや、動物は仲間を殺して食べたりはしない。人間は動物以下の生き物だ。仕方ない、滅ぼすか」
がっかりした神さまは、野蛮な人間をこの世から滅ぼそうと考えました。
しかし、野蛮な人間の中にも心優しい兄弟がいたので、その妹と兄だけは助けてやろうと思いました。
神さまは、二人の兄弟に、
「わたしはこれから、油雨というものを降らせる。この雨は毒の雨で、油雨にあたった者は、誰でもすぐに死んでしまうだろう。けれどお前たちは、この鍋の下にいなさい。雨が降っている間、決して外に出なければ、死ぬ事はないだろう」
と、二人の兄弟を大きな鍋の下に隠しました。
それから地上に、何日も何日も油雨が降りました。
そしてこの雨にふれた人間たちは、ばたばたと死んでいきました。
運良く雨をさけて暮らしていた人たちも、神さまが起こした悪い病気のせいで、次々と死んでいきました。
そうして地上から野蛮な人間がいなくなると、長く続いた雨がやんだのです。
雨の音が聞こえなくなると、兄弟は鍋の中から出てきて、誰もいなくなった地上で暮らし始めました。
やがて兄弟は大人になり、結婚するときれいな真水がわく海辺で暮らしました。
最初に生まれた赤ん坊は、全身がうろこにおおわれた魚でした。
びっくりした二人は、その魚を海に投げ捨てました。
こうして魚が、誕生したのです。
それから二人は、山で暮らしました。
次に生まれた赤ん坊は、体が長細いヘビでした。
びっくりした二人は、そのヘビを山に投げ捨てました。
こうしてヘビが、誕生したのです。
でも、どうしてこんな化け物ばかり生まれてしまうのかと、二人は泣きながら神さまにお祈りしました。
すると神さまが現れて、二人に言いました。
「お前たちは、海辺でも山でも、家を作らずに暮らしている。それでは動物と同じだ。動物と同じ様な暮らしでは、動物のような子どもが生れても仕方がない。知恵のある人間なら、ちゃんとした家を作りなさい。そうすれば、その家にふさわしい子どもが生れるだろう」
そこで二人は、外敵や風を防ぐ壁も、雨を防ぐ屋根も、出入りできる戸もある、立派な家を作ったのです。
すると、その家にふさわしい赤ん坊が生れました。
その赤ん坊は、今の人間の様に体の毛が少なく、とても美しい姿をしていました。
それから二人はたくさんの子どもを産み、そしてその子どもがまた子どもを産んで、世界中に人間が増えていったのです。