むかしむかし、高知のある村に、高見亀居(たかみかめおり)という侍が住んでいました。
亀居(かめおり)は釣りが大好きで、浅吉(あさきち)と勘六(かんろく)という二人の使用人に魚を入れるかごとお酒が入ったひょうたんを持たせては、近くの川へ釣りに出かけました。
ある日の事、年を取った浅吉が言いました。
「だんなさま。今日は、ピクリとも来ませんな」
「ふむ。酒もなくなった事だし、帰るとするか」
亀居が言うので、浅吉が帰り支度をはじめました。
すると勘六が持っていたさおが、急に激しく引っぱられたのです。
「おおっ! かかった、かかった! だんなさまー!」
勘六の声に、亀居は急いでさおを引き取りました。
「よくやった。これは大物じゃ。しかし、なかなかの強敵じゃ」
力まかせに釣りあげれば、釣り糸が切れるか、さおが折れてしまいます。
そこで亀居は辛抱強く、相手が弱るのを待ちました。
やがて姿を現した魚は、五、六十センチほどの大きなコイでした。
亀居が手元まで上手に引き寄せると、勘六がアミですくって岸へあげました。
いつの間にか日は暮れていましたが、不思議な事に、かごの中に入れたコイのうろこが月の光にキラキラと輝いて、ちょうちんの様に足元を明るく照らしてくれるのです。
そして家に帰ると亀居は、さっそくコイを勘六に料理をさせました。
すると、コイのお腹を開いた勘六が、
「あっ!」
と、声を上げました。
なんとコイのお腹の中から、小さな手鏡が出てきたのです。
「だんなさま、これを」
勘六はあわてて、その手鏡を亀居のところへ持っていきました。
「これは、すごい!」
その手鏡の裏は黄金で出来ていて、そこから発するまばゆい光りが部屋中を明るくしたのです。
亀居は、この不思議な手鏡を家宝として、とても大切にしたそうです。