むかしむかし、能登半島の狼煙と言う所に、一人の漁師が住んでいました。
漁師はどんなに海が荒れる時も必ず船を出して、毎日サバ釣りをしていました。
そしてそのサバを売ったお金で、大好きなお嫁さんにおいしい物を食べさせてやるのです。
ある日の事、今日は朝からひどい嵐だったので、お嫁さんが夫に言いました。
「ねえ、今日はひどい天気よ。こんな日ぐらい、仕事を休んではどう?」
しかし漁師は、お嫁さんににっこり笑うと、
「大丈夫だよ。それにこんな天気ほど、大物が捕れるのさ」
と、言って、そのまま海に行ってしまいました。
これも、お嫁さんにおいしい物を食べさせてやるためなのですが、でもお嫁さんは、
「もしかすると漁に行くというのは口実で、本当は他に好きな女が出来たのかも・・・」
と、夫を疑いだしたのです。
そこでお嫁さんは、夫に言いました。
「それなら、わたしも一緒に連れて行って下さい」
しかし夫は、首を振って言いました。
「海は危険だから、連れてはいけない」
そこである日、お嫁さんは夫に内緒で、船に忍び込んだのです。
お嫁さんが隠れているとは知らない夫は、いつもの場所に船をつけると釣りを始めました。
(なんだ、本当に釣りをしていたのね)
そこで隠れていたお嫁さんが、ひょいと立ちあがって夫に声をかけました。
「あなた」
ところが、お嫁さんがあまりにも急に出てきたので、夫はお嫁さんを海の化け物だと思い込んで、
「この化け物め!」
と、近くにあった包丁をお嫁さんに突き刺したのです。
「キャーーー!」
お嫁さんは悲鳴を上げて、そのまま海に沈んでしまいました。
自分が包丁で刺して殺したのが、自分が命よりも大切にしているお嫁さんだと気づいた夫は、
「わっ、わしは、かわいい嫁を殺してしもうた」
と、そのまま海に沈んだお嫁さんを追って自分も海に飛び込み、そのまま二度と浮かんでは来ませんでした。
その時からこの場所は、『嫁礁(よめぐり)』と呼ばれいるそうです。