むかしむかし、山口の殿さまは大の老人嫌いで、
「年寄りとは体が弱くて働かず、ただ無駄飯を食らうだけの役立たずだ」
と、年寄りを、うば捨て山と呼ばれる山へ捨てさせていたのです。
ある家のおばあさんも年寄りになったので、息子が背負って山へ捨てに行きました。
ところがいよいよ捨てられるという時に、おばあさんが息子に言いました。
「お前が帰りに道に迷わんよう、ずーっと木の枝を折って来たから、それを目印に帰りなさい。じゃあ、元気でな」
それを聞いた息子は、
「こんないいばあさまを捨てるなど、おらには出来ん」
と、もう一度おばあさんを連れて帰り、納屋のすみに隠したのです。
ある日、隣の国の殿さまが、山口の殿さまへ難題を持ちかけてきました。
それは、真っ黒に塗られた一本の柱を持って来て、
《どちらが根元だったか、見わけよ》
と、いうものでした。
殿さまや家来たちだけでなく国中の者が考えましたが、柱は前も後ろも同じ太さに削られているので、どちらが根元だったかなんて誰もわかりません。
ところがそれを息子から聞いたおばあさんが、息子にこう言ったのです。
「その木を、水に落としてみなさい。同じ太さでも根は先より重いから、沈んだ方が根元じゃ」
息子から話を聞いた殿さまが、その事を隣の国へ伝えると、正解を言い当てられた隣の国の殿さまはもっと難しい問題を言ってきました。
《灰で、縄を作ってみせろ》
どう頑張っても、灰で縄を作る事なんて出来ません。
しかしそれを聞いたおばあさんは、いとも簡単に言いました。
「灰で縄を作るのではなく、縄を燃やして灰にすればよい」
息子から答えを聞いた殿さまが、その事を隣の国へ伝えると、隣の国の殿さまは、
「うーん。知恵者のいない国なら攻め取ってやろうと思ったが、あの国には大した知恵者がいるようだ。これは攻めるよりも、手を結ぶのが得策だな」
と、考えを改めて、それから二つの国は仲良くなりました。
やがて二つの難問をといたのが、うば捨て山へ捨てるはずだったおばあさんだと知って、殿さまは自分がやっていた事が間違いだったと気づきました。
「年寄りは体が弱くて働けずとも、それにまさる知恵を持っておる。我らはもっと、年寄りに多くの事を学ばねば」
そして山に捨てた老人たちを全て呼び戻すと、今度は老人を大切にする殿さまになりました。