ある日の事、タヌキは漁師の舟が浜辺に戻って来るのを見ると、くるりん! と、人間の相撲取りに化けました。
そして魚をかついだ漁師たちが来ると、相撲取りに化けたタヌキは手足を広げて通せんぼをしました。
「どすこーい! おらと、相撲を取れ。そしておらが勝ったら、魚を全部置いていけ。どすこーい!」
それを聞いて、漁師たちはびっくりです。
「冗談じゃねえ! 相撲取りに、相撲で勝てるわけがないだろう! さあ、どいてくれ」
しかし相撲取りに化けたタヌキは、通せんぼをしたままどいてくれません。
仕方がないので漁師たちは相撲を取る事にしたのですが、相撲取りに化けたタヌキの強い事。
漁師たちは、ぽいぽいと投げ飛ばされてしまいました。
「あははは。では、約束通り魚をいただくぞ」
相撲取りに化けたタヌキは、魚を全部持って山へ帰って行きました。
それからもタヌキは毎日相撲取りに化けては、漁師たちと相撲を取って魚を全部取り上げました。
「まったく、なんとかならんのか?」
「これじゃ、相撲取りの為に魚を捕ってる様なものだ」
「しかし、相撲取りに相撲で勝てるわけがないし」
漁師たちが相談していると、金(きん)という名前の、いつもブラブラ遊んでいる男がやって来て言いました。
「よし、おれにまかせろ」
そして金は、イワシをたくさんかついで出かけました。
イワシをかついだ金がやって来ると、タヌキが化けた相撲取りがいつもの様に通せんぼをしました。
「どすこーい! おらと、相撲を取れ」
「お前が、うわさの相撲取りだな。
よし、お前が勝ったら、イワシをやろう。
だが、おれが勝ったらどうする?」
「あははは。
おらに、勝てると思っているのか?
まあいい、おらが負けたら相撲をやめてやるよ」
「よーし、約束だぞ!」
金はそう言うと仕切りの線を書いて、相撲取りに化けたタヌキとにらみ合いました。
そして、お互いに腰を下ろしたとたん、金が叫びました。
「やったー! おれの勝ちだー!」
「へえ?」
相撲取りに化けたタヌキは、何がなんだかわかりません。
「こら、勝ちも何も、まだ勝負は・・・」
そう言って相撲取りに化けたタヌキが立ち上がった時、金は体ごと相撲取りに化けたタヌキにぶつかって行きました。
「すきあり!」
「うわっ!」
相撲取りに化けたタヌキは、不意を突かれて思わず尻もちをつきました。
金は、尻もちをついた相撲取りに言いました。
「これで、この勝負はおれの勝ちだ」
「ずるいぞ!」
「何を言う! ゆだんをした、お前が悪いんだ。さあ、約束通り、二度と相撲はするなよ」
「・・・くそー!」
相撲取りに化けたタヌキは、くやしそうに山へ帰って行きました。
そして二度と、姿を見せなかったそうです。
おしまい