むかしむかし、ある年のお正月の二日に、おやじさんが三人の息子にたずねました。
「お前たちは、どんな初夢を見たんだね?」
上の二人は自分の初夢を話しましたが、末っ子の三郎だけは、なぜか初夢の事を話そうとしません。
そこで怒ったおやじさんが、三郎を家から追い出してしまったのです。
一文無しで食べる物にこまった三郎は、人の畑からやさいをぬすんで役人につかまり、お城のろう屋に入れられてしまいました。
「ああ、とんでもない事になってしまったな」
そこへ、この国の心やさしいお姫さまが、かわいそうな三郎にご飯を運んでくれたのです。
「あの、お腹が空いておられると聞きました。どうぞ、これをお食べくださいな」
「あっ、はい。ありがとうございます」
お姫さまは心やさしいだけでなく、とても美しい人です。
三郎は思わず赤くなりながら、ふと思いました。
(もしかして、この姫さまが初夢の・・・)
それからしばらくしたある日の事、この国のとなりにある鬼の国の王が、こんな事を言ってきました。
「この国の姫の美しさは、三国一(さんごくいち→日本・中国・インドを合わせた中でも一番の事)と聞く。姫には、この鬼王の嫁になってもらおう!」
鬼の嫁になるなんて、とんでもありません。
お姫さまは今にも泣き出しそうになり、父親の殿さまは鬼の王の申し出をきっぱりと断りました。
すると、これに腹を立てた鬼の王が、
「ならば、これから出す三つの問題に、見事答えてみろ! もし答えられなければ、お前の国に攻め込み、姫も国もうばい取ってやる!」
と、言ってきたのです。
まず、最初の問題です。
鬼の王は、はしからはしまで同じ太さの棒(ぼう)を送ってきて、
《この棒のどちらのはしが根っこだったか、見分けろ》
と、いうのです。
殿さまや家来たちがいくら棒を見ても、どっちが根っこだったかなんてわかりません。
そこで殿さまは、家来たちとこんな相談をしました。
「このままでは、この国は鬼にせめほろぼされてしまう。くやしいが、万一の時は姫に嫁へ行ってもらうしか・・・」
「しかし、それでは姫さまが・・・」
この話を聞いて泣きながらご飯を運んできたお姫さまに、鬼の話しを聞いた三郎はにっこり笑って言いました。
「姫さま、泣かなくても大丈夫です。
木という物は、先よりも根っこの方が重いもの。
棒のまん中を糸でしばってつるすと、重い根っこの方が下にさがります」
この話しをお姫さまから聞いた殿さまは、三郎の教えてくれた方法で根っこだった方を調べて、そっちに印をつけて鬼の国へ送り返しました。
「ぬぬっ、人間にも、多少は知恵のあるやつがいるな」
鬼の王は苦い顔をすると、今度は同じ大きさ、同じ顔、同じ毛並みの白い馬を三頭送ってきました。
次の問題は、
《これらの馬を、歳の順に見分けろ》
と、いうのです。
三頭の馬は見た目が全く同じなので、どれが年上でどれが年下か、さっぱりわかりません。
こまった殿さまは、三郎のろうやに行って言いました。
「三郎よ。先ほどの問題を見事にといた、お前の知恵を貸してくれないか」
すると三郎は、にっこり笑ってこう答えたのです。
「殿さま。
馬が食べる草を、刈り入れた年の順に三つ用意してください。
今年の草を食べたのが一番若く、前の年の草を食べたのがその次で、前の前の年の草を食べたのが一番の年寄りです。
ウマも人も、うまれて初めて食べた物の味が一番好きですからね」
そこで殿さまが刈り入れた年の違う草を用意すると、馬はそれぞれ違う年に刈り入れた草を食べたのです。
三郎のおかげで、この問題も見事に正解です。
答えを聞いた鬼の王は、またまたにがい顔をしました。
「人間め、なかなかやるな。だが、次はとけまい」
しばらくすると鬼の国から、大きな鉄の矢が飛んできました。
ひゅーーーん、ずとーん!!
お城の庭に深々と突きささった鉄の矢を見ると、手紙が結びつけてあります。
その手紙には、こう書かれていました。
《この鉄の矢を抜いて、鬼の国までかついでこい》
「よし、今度は何とかなるだろう」
殿さまの命令で、力じまんの家来たちがよってたかって鉄の矢を引き抜こうとしました。
しかし鉄の矢は地面深くに突きささっていて、家来が何人がかりでもびくともしません。
こまった殿さまは、また三郎のろうやに行きました。
「三郎よ、またお前の知恵を貸してくれないか」
話を聞いた三郎は、にっこり笑って言いました。
「殿さま。
引っぱって抜こうとするから、矢は抜けないのです。
考え方を変えて、まわりの土をほればよいのです」
「そうか。なるほど」
三郎の言う通りにまわりの土をほると、鉄の矢はかんたんに抜けました。
これに感心した殿さまは三郎の罪を許して自分の家来にすると、鉄の矢を鬼の国へ持って行く使いにしたのです。
さて、見事に鉄の矢を持ってきた三郎を見て、鬼の王は感心して言いました。
「人間の中に、お前のような知恵のある者がいるとはおどろきだ」
鬼の王は、三郎の前にお酒のとっくりを置きました。
「これが、最後の問題だ。ここにある鬼王の酒は、なんの酒だ?」
すると三郎が、にっこり笑って言いました。
「はい。普通なら『鬼の酒は、人の生き血をしぼる酒』と答えるでしょうが、あなたはそんな悪い鬼には見えません。きっと、普通の酒でしょう」
「がははははは。見事だ」
鬼の王は、自分のお酒を三郎に渡して言いました。
「約束通り、姫の事はあきらめよう。その酒はほうびだ、持って帰るが良い。一口飲めば、百日寿命が延びる名酒だ」
やがて三郎が鬼の国から無事に帰ってくると、殿さまは大喜びで言いました。
「三郎よ、よくやった。
お前のおかげで、この国も姫も救われた。
お前には、知恵も勇気もある。
どうだろう、姫のむこになってはくれないか」
「はい! 喜んで、お受けいたします!」
こうして三郎とお姫さまは、めでたく結婚したのです。
一文無しから大出世をした三郎は、自分の家族をお城に呼びよせると、おやじさんに初夢の事を話しました。
「おやじさま。わたしの見た初夢とは鬼の難問を次々とといて、姫さまのむこになる事だったのです」
よい初夢は、人に話してはいけないと言われています。
三郎はその通りにして、こんなにすばらしい幸せをつかんだのです。
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