とてもずるがしこいキツネで、村人たちをだましては魚やあぶらあげをとっていました。
中でも一番よくとられるのは、お寺のお坊さんです。
お坊さんは村の家へお経をあげに行くたびに、もらってくるごちそうをキツネにだましとられていたのです。
ある日の事、お坊さんは道ばたで、昼寝をしているキツネを見つけました。
(よし、今日はこっちが、キツネをだましてやろう)
お坊さんは、寝ているキツネの肩をたたいて言いました。
「だんなさん、だんなさん」
キツネはびっくりして飛び起きると、あわてて金持ちのだんなに化けました。
「だんなさん。こんなところで寝ていると、キツネにだまされますよ。どうです? 二人で料理屋へごちそうを食べに行きませんか?」
「ごちそう? そいつはいいですね」
キツネは大喜びで、お坊さんと一緒に町の大きな料理屋へ行きました。
「さあ、どんどん食べて、じゃんじゃん飲んでくださいよ。いつもお世話になっているお礼に、今日はわたしがごちそうをしますから」
お坊さんはおいしい料理やお酒をどんどん運ばせて、自分もせっせと食べたり飲んだりしました。
「いやあ、すまんのう」
だんなに化けたキツネも、お坊さんに負けずと料理を食べてお酒を飲みました。
やがて、すっかりお腹が一杯になったお坊さんは、
「ちょっと失礼して、小便に行ってきます」
と、言って、部屋を出ました。
それから女中さんに、こう言いました。
「わしは、まだこれから行くところがあるので、すまんが大急ぎでおみやげを作っておくれ」
「はい」
女中さんが、おみやげの料理を持ってくると、
「そうそう、代金は食べた分と一緒に、だんなさんからもらっておくれ」
と、言って、さっさと帰っていきました。
さて、部屋に残されたキツネは、
(ずいぶんと、長いおしっこだなあ)
と、思いながらも、一人でお酒を飲んでいました。
しかしお坊さんは、いつまでたってももどってきません。
(おかしいな。何をしているのかな?)
キツネはだんだん、心配になってきました。
そのうちにほかのお客さんはみんな帰ってしまい、残っているのはキツネだけになりました。
そこへ女中さんが来て、言いました。
「だんなさん、申し訳ありませんが、そろそろお店も終わりますので」
「そうか。ところでわしの連れのお坊さんは、どうした?」
「はい。もうとっくに、お帰りになりましたよ」
「なんだと! 帰っただって!」
「ええ。それから料理とおみやげのお金は、だんなさんからいただくように言われました」
(しっ、しまった。坊さんにだまされた!)
キツネは、自分がだまされたことに気づきました。
(どうしよう、どうしよう。困ったぞ)
おろおろしているうちに、うっかり変身がとけてしまい、キツネは元の姿にもどってしまいました。
「あっ、キ、キツネ!」
女中さんが大声で叫ぶと、その声を聞いてお店の人たちがかけつけてきました。
「人間に化けてただ食いするなんて、とんでもないキツネだ!」
「さあ、逃がすもんか!」
お店の人たちは、棒やほうきでキツネをなぐりつけました。
「た、助けてくれえー」
キツネは店の中をぐるぐると逃げまわり、やっとの事で天井裏から外に飛び出しました。
「それにしても、ひどいお坊さんだ。キツネを連れてくるなんて」
次の日、料理屋の主人はお坊さんのところへお金をとりに行きました。
ところがお坊さんは、すました顔でこう言いました。
「そいつはお気の毒ですな。でもわしは、お前さんの店なんかに行ったことがないよ。きっとそのお坊さんも、キツネが化けていたんだろうよ」
それを聞いた料理屋の主人は、
「あのキツネめ。今度見つけたら、ただではおかないぞ!」
と、言って、くやしがったそうです。
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