むかしむかし、ちょうふく山という山のふもとに、小さな村がありました。
このちょうふく山には、恐ろしいやまんばが住んでいると言われています。
ある年の十五夜の晩、村人たちがお月見をしていると、にわかに空がかきくもり、ちょうふく山から恐ろしい声がひびきわたりました。
「ちょうふく山のやまんばが、子どもを産んだで、もち持って来い! 来ないと、人もウマも食い殺すぞ!」
村人たちは、びっくりです。
そこでみんなで米を出し合って、大あわてで祝いのもちをつきました。
こうしてもちは出来たのですが、ところがみんなやまんばを怖がって、ちょうふく山にもちを届けようとはしません。
「お前が行けよ」
「とんでもない、おれには女房と子どもがいるんだ」
「おれもいやだぞ」
「じゃあ、誰がよい?」
「そうだ、いつも力じまんをいばっておる、かも安(やす)と権六(げんろく)に行かせたらどうだ?」
そこで二人が呼び出されたのですが、二人は、
「持って行ってもいいが、おれたちは道を知らねえぞ。知らねえところへは、持って行けねえぞ」
と、断りました。
すると村一番の年寄りの大ばんばが、進み出て言いました。
「わしが知っとる。子どもの頃、ちょうふく山でやまんばを見たことがあるでな。わしが、道案内をしよう」
こうなっては、かも安と権六も断れません。
二人は仕方なくもちをかかえると、大ばんばの後をついてちょうふく山ヘと登っていきました。
ちょうふく山の山道を進む三人に、なまあたたかい風が吹いて来ました。
「お、大ばんば、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」
「大ばんば。まだ行くんか?」
「ああ、もうちっと先だ。はやく行くぞ」
その時、さっと強い風が吹き付けて、不気味な声がひびきました。
「もちは、まだだかーーー!」
それを聞いたかも安と権六はびっくりです。
「ひえっ、出たあー!」
「た、助けてくれえー!」
二人はもちを放り出すと、たちまち逃げてしまいました。
「ああっ、これ、待たんか。・・・やれやれ、わし一人では、もちを運べんだろ」
仕方がありません。
大ばんばはもちを置いて、やまんばの家を訪ねていきました。
やまんばは大ばんばを見ると、うれしそうに笑いました。
「おう、ごくろうじゃな。実は昨日赤子を産んで、もちが食いとうなったんだ。そこで赤子にもちをもらってくる様に使いに出したんじゃ。して、もちはどこじゃな?」
大ばんばは、びっくりです。
あの恐ろしい声を出したのが、生まれたばかりの赤ん坊だったのです。
「はい、はい。持って来たども、あんまり重いので、山の途中に置いてきましただ」
これを聞くと、やまんばは赤ん坊に言いつけました。
「これ、まる。お前、ちょっと行ってもちを取ってこい」
すると、まると呼ばれた赤ん坊は、風のように飛びだしていき、一人で重いもちをかついで帰ってきました。
さすがは、やまんばの子です。
「それじゃあ、わしはこれで」
恐ろしくなった大ばんばが帰ろうとすると、やまんばが引き止めました。
「せっかく来たんだ。ついでに家の手伝いをしてくれ」
「・・・はあ」
大ばんばは嫌とも言えず、それから二十一日間、やまんばの家で掃除をしたり洗濯をしたりして働きました。
するとやまんばが、
「長い事、引き止めてすまんかった。それじゃ、土産にこれをやるべ」
と、やまんばは見事なにしきの布を大ばんばにくれたのです。
「ほれ、まる。大ばんばを、村まで送ってやれ」
言われたまるは大ばんばを軽々とかつぎあげ、あっという間に村に運んで行きました。
さて、大ばんばが村に帰ってみると、みんなは大ばんばが死んだと思って葬式の最中でした。
「大ばんば、生きていたのか!?」
「当たり前だ。そう簡単に死んでたまるか。それより、やまんばから土産をもらったぞ」
大ばんばはやまんばのにしきを、村人たちにも分けてやりました。
ところがそのにしき、切っても切っても次の朝には元の長さに戻るという、不思議なにしきでした。
それからと言うもの、そのにしきはこの村の名物となり、みんなはにしきを売って幸せに暮らしたという事です。
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