むかしむかし、京の都に、清原正高(きよはらまさたか)という横笛(よこぶえ)の名人がいました。
その正高(まさたか)うわさが帝(みかど→天皇の事)の耳に入り、宮中の宴(うたげ)の席で笛を吹くようになったのです。
ある日の事、宮中勤めをするようになった正高(まさたか)が笛を吹いていると、どこからともなく笛に合わせるように美しい琴(こと)の音(ね)が流れてきました。
それは、小松女院(こまつにょいん)という姫のかなでる琴でした。
その日から宮中では笛と琴の音あわせが、毎日のように聞かれるようになったのです。
そして二人は、お互いに相手の事が好きになりました。
これを知った帝は、大変怒りました。
笛吹きの正高と帝と血のつながりのある姫とでは、身分が違い過ぎるからです。
そして正高は豊後の国(ぶんごのくに→大分県)へ、姫は因幡の国(いなばのくに→鳥取県)へと、離ればなれにされてしまいました。
さて、それからいく年もたちましたが、姫はどうしても正高の事が忘れられられず、十一人の侍女(じじょ)とともに豊後の国へと旅立ったのです。
けわしい山を越えて海を渡るその旅は、命をかけての旅でした。
豊後の国の玖珠(くす)という所にたどり着いたのは、因幡の国を出てから百日余りもたった頃です。
みんなは身も心も疲れ果てて、三日月の滝のほとりで休んでいました。
するとそこへ、一人の年老いた木こりが通りかかりました。
侍女の一人が、木こりに声をかけます。
「あのう、このあたりに清原正高さまというお方が住んでいると聞いて参ったのですが」
「ああ、横笛の正高さまかね。正高さまなら、五、六年前からこの里に住んでおいでじゃが、今では里の主の兼久(かねひさ)さまの娘婿(むすめむこ)になっております」
「なっ、なんと・・・」
これを聞いた姫は、生きる望みをたたれました。
「正高さま・・・」
姫はよろよろと三日月の滝のふちに近寄ると、手を合わせて飛び込んだのです。
「姫さま。わたくしたちも、お供いたします」
そしてその後を追って、十一人の侍女たちも次々と身を投げてしまいました。
年老いた木こりは、あまりの出来事に息をのんで見つめているだけでした。
この木こりから話しを聞いた正高は、姫とその侍女たちの霊(れい)をなぐさめるために寺を建てました。
そして心をこめて、横笛を吹いたのです。
正高の建てたその寺は正高寺(しょうこうじ)と呼ばれて、今も残っています。
そして三日月の滝のほとりには、嵐山神社(あらしやまじんじゃ)が建てられて、正高の横笛が大切に保存されているという事です。
~大分県の民話~
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