むかしむかし、ある山にイタズラギツネが住んでいて、通る人をだましては荷物をとっていました。
ある日の事、イタズラギツネのうわさを聞いた一人の侍(さむらい)が、
「キツネのくせに、人間の荷物を取るなんてとんでもないやつだ。ここは一つ、わしが退治(たいじ)してくれよう」
と、言って、にぎり飯の弁当を背負い、キツネのいる山道へと出かけていきました。
侍は山道の途中で立ち止まると、刀に手をかけたままキツネが現れるのを待ちました。
ところがいくら待っても、キツネは現れません。
(わしが来ると知って、出てこないんだな)
侍は仕方なく近くにあった石に腰をおろし、弁当のにぎり飯を食べはじめました。
するとその時、山道の下の方で何やら人のさけぶ声がしました。
(さては、キツネが現れたか)
侍はにぎり飯を置いて、立ち上がりました。
すると山の下の方から一頭の馬がかけ出してきて、後ろから二、三人のお百姓さんが追いかけてきます。
(なんだ、馬が逃げだしたのか。よし、わしが捕まえてやろう)
侍は道の真ん中に立って、馬が来るのを待ちかまえました。
ところがその馬は、道の真ん中に立っている侍めがけて頭から突っ込んできます。
「あぶない!」
さすがの侍も、あわてて草むらへ飛び込みました。
そのとたん、走ってきた馬がにぎり飯を口にくわえていったのです。
「しまった!」
侍があわてて草むらから飛び出すと、馬の姿はだんだん小さくなり、いつの間にかにぎり飯をくわえたキツネの姿になって逃げていきました。
後ろをふり返ると、馬を追っかけてきたお百姓さんもいません。
「やられた! キツネにやられるとは、なんたる不覚(ふかく)」
この事が知られると恥ずかしいので、侍はこそこそ逃げるようにして山をおりていきました。
~岩手県の民話~
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