むかし、伊豆にある大きなお寺では『輪番(りんばん)』といって、三十一年ごとに住職のお坊さんが小田原にあるお寺へ行って、おつとめをすることになっていました。
ある日、『輪番』をおえた和尚さんが、小田原から伊豆のお寺へ戻る途中のことです。
ある屋敷に泊まって寝ていると、ふすまの向こうからお付きの若い坊さんがそっと声をかけてきました。
「和尚さま。ただいま、至急お目にかかりたいという方が見えました。和尚さまは今夜はお疲れですから、明朝こられるようにと申しあげましたが、お帰りになりません。いかがいたしましょう?」
すると和尚さんは、
「よいよい。何用かわからぬが、会ってみよう」
と、部屋から出ていきました。
そして玄関口へ行ってみて、びっくり。
風呂敷包みをかかえて立っていたのは見上げるような大男で、顔はブツブツのあばたづらで、目玉がピョコンと飛び出し、まるでガマガエルの化け物のようです。
男は、和尚さんに頭を下げました。
「わたしは、ここの隣村に住む者ですが、ひそかに和尚さまにお話ししたいことがありまして、こんなごめいわくな時分にやってきました。どうか、お許しください」
見かけによらず、なかなか丁寧な男です。
和尚さんは男を部屋に通して、話を聞く事にしました。
「して、話したい事とは?」
「はい。何をかくしましょう。
わたしは和尚さまのお寺の池でうまれて、なに不自由なく育てていただいたヒキガエルでございます。
それが昨年の大洪水で川へ流され、この近くの浜辺に泳ぎつきました。
今は隣村の、ある沼におります。
一度、これまでお世話になったお礼がしたいと思っておりましたが、なにせ伊豆のお寺までは遠すぎてどうにもなりません。
それが今晩、和尚さまがこちらへお泊まりになるとお聞きして、こうしておうかがいしたわけです。
これは、わたしのほんの志(こころざし)です。
お礼のしるしとして、どうぞお納めください」
男はそう言うと風呂敷包みの中から麻の袈裟衣(けさごろも)を取り出し、うやうやしく和尚さんに差し出しました。
和尚さんが手にとって確かめると、今まで見た事がないほど立派な物です。
「おお、これは素晴らしい」
和尚さんは喜んで、袈裟衣を受け取りました。
その後、和尚さんはヒキガエルからおくられた袈裟衣をお寺の宝物として、とても大切にしたという事です。
~静岡県の民話☆
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