ある日の事、村から帰ってきた良寛は、お寺の縁側の床がふくらんでいる事に気づきました。
「おや? どうした事だ?」
不思議に思った良寬が床下をのぞいてみると、なんと床下から一本の竹の子が生えていて、床を下から押しているのでした。
「ああ、これは大変だ!」
良寬は急いで物置へ行くと、のこぎりを持ってきました。
そして、そののこぎりで竹の子を切るのかと思えば、なんと良寬は竹の子の真上の床を四角く切り抜いたのです。
「これでよし。きゅうくつな思いをさせてすまなかったね。さあ、竹の子さん。遠慮はいらんから、ずんずんと伸びなされよ」
良寬とは、こんな人物だったのです。
さてこの竹の子は、それからも毎日すくすくと大きくなりました。
「がんばれ、竹の子さん」
良寛は、毎日大きくなる竹の子を見て大喜びです。
でもそのうちに、
「いや、これはどうしたものかのう?」
何と竹の子は、天井に届くまで大きくなってしまったのです。
「天井を切れば雨がもるし、かといって、竹の子を切るのも可哀想だ。天井と竹の子、どっちが大切かと言うと」
ちょっと考えた良寛は、物置からのこぎりとはしごを持ってくると、竹の子の周りの天井を四角く切り抜いてやったのです。
「さあ、もう安心じゃよ。竹の子さん、がんばれよ」
おかげで小さかった竹の子は、立派な竹になりました。
でも雨が降ると天井の穴から水が入ってきて、お寺の床は水びたしになってしまいます。
それでも良寛は満足げに、
「なあに、雨でぬれた床は拭けばいい。それより竹さんが、雨をあびて喜んでおるわ」
と、言ったそうです。
※ 良寬(りょうかん)は、越後国(えちごのくに→新潟県)の名主の息子に生まれ、俳人でもあった父の影響を受けて、書や和歌、漢詩で名を広めた人物です。
この良寬は人付き合いが苦手で、十八歳で出家したのち、約三十年もの間、全国を旅しながら修行を続け、そしてその後は故郷の近くの山寺で暮らしました。
これは、その良寬が出雲崎(いずもさき→新潟県三島郡)の山寺に住んでいた頃のお話しです。
~新潟県の民話~
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