この世には格の違いというものが存在する。それは普段は息を潜めているが、時として我々の前に堂々とも尊大ともとれる態度で立ち上がる生きた壁である。
普段生活している分にはさほど意識せずにすむし、万が一気づいたとしても心のどこかで「今のは例外」とか何とか強引な理由をつけてスルーしてしまうものである。というか、そうでもしないと生活から覇気が無くなってしまう気がしてどうしようもないのだ。
そんな「格の違い」だが、どうしてもその「ぬりかべ」みたいなまがまがしさから逃れられない状況というのは、人として社会に溶け込んでいる以上避け続けることは出来ない。
話は僕の高校時代に移る。我が母校、松山高校は東武東上線の下り方面にある男子校であった。埼玉の田舎の路線の、更に下り方面に在る男子校という時点で在校生男子諸君は去勢されたようなもんだが、上り方面には川越高校という男子校だが水泳部がウォーターボーイズのモデルというなんともモテそうな、そして実際女子受けの良い男子校があったため更に惨めだった。
そんな状況下で男が集まると、性欲の約8割は体力になる。そして、恋愛感情の約9割はスポーツマンシップになるのだ。よって我が校は県立高校でありながら他の私立の強化選手達と張り合う位部活が強かった。僕はそんな高校の空手道部に所属していた。校内にちゃんと専用の道場があるのだが、新人時代は道着を着させてもらえず、それどころか道場に入れてもらえず、ジャージ×はだし×駐輪場というMAXかっこ悪い境遇にさらされたが、それで女子にモテたり嫌われたりする恐れも無いので、皆が皆、なりふり構ってなかった。
そんなこんなで、僕たちはすっかりモテない感じになっていた。そして何より5ミリのボーズだった。
それ程に青春を粉にして稽古したにも関わらず、いや、した故に、その瞬間はやってきた。僕はその大会で組手の二回戦に進出していた。相手は県内の強豪、埼玉栄高校の選手であった。丁度先の関東大会で二位だった男だ。当時の僕は十代の男子であったので勿論血気盛ん。相手にとって不足無しと息巻いていた。相手のその選手は体格は如何にもアスリートといった感じであるが、礼儀や表情はいかにも武道家然とした穏やかさを帯びていた。はっきりいってかなりの好青年といった印象だった。
お互い目をあわせ、その後礼をし、構えの姿勢をとる。審判の「始め!!」の裂帛の瞬間、空気の質がぐうっと重くなった気がした。先ず、相手はサウスポーであり、間合いが取りずらい。が、僕の高校にもサウスポーはいたので、なんとなく突き出してる前拳を牽制しながらジリジリと間合いを詰めた。が、なかなかに構えが固い。こちらも攻撃を警戒している為、お互いしばし距離を探りあう形となった。
ややあって均衡を破ったのは相手の方だった。だが僕は警戒心をまだ解いていなかったためよけつつ間合いをとった、
その瞬間、
僕の脳裏を横切ったのはギャグにならない本物のバズーカだった。おかしい!いまのは刻み突き(ボクシングで言うジャブみたいなやつ)だろ!あれは…なんというか実害があるぞ絶対に!…とはいえ松高空手道部は攻めが基本、臆せばその瞬間に敗北を背負うのが我らの空手…!ひいてなるものかと勢いに任せて蹴り突きと放つものの、ことごとくかわされ、いなされていく…惨めだ!松山女子高校空手道部の皆さんも観ているかもしれないのにあんまりじゃぁないか!と大ぶりな上段逆突きを繰り出そうとしたその瞬間、相手の前足が僕の頭部左側へ
かっ
と炸裂した。もう一度括弧つきで言う。「かっ」と炸裂したのだ。高校の組手の試合はメンホーといって、透明な強化プラスチックで出来たフルフェイスヘルメットみたいなやつの着用を義務付けられているのだが、それを育ちざかり恋ざかりな男子が蹴ると大抵「ごばきゃ」とか「どべき」といった品のない音がするものである。だからいささかびっくりした。どうしてそんな音がしたのか全く理解できなかったし、衝撃もさほどなかったので本当にきれいにくらったのかどうかよくわからなかったからだ。
結局、そのまま時間切れになり、僕は何もできずに負けた(寸止め方式なのでノックダウンじゃなく、フェンシングみたいにポイント制なのだ)。普通の負けなら何くそと思って又稽古で取り返そうと思ったのだろうが、格の違いを知ったのはむしろこの後だった。
午後の団体戦にそなえウォームアップを終え、同期と練習しようとメンホーをつけようとした時だった。なんとメンホーが入らない。メンホーには立て横にベルトがついていて、それを調節して頭の大きさに合わせるのだが、通常はずす時は片方のベルトだけ外す。よって、さっきかぶれたのなら頭のさいずが変わらない限り入るはずなのだ。まさか頭が膨張したのか…と頭を気にすると、なんだか左の方が痛い。恐る恐る触ってみると驚愕!さっき蹴りを受けた部分が物凄く腫れているではないか!!そうか。一般男子の「ごばきゃ」「どべき」は「殺す」「死ね」だったのに対してかれの「かっ」は「殺せるけど殺さないよ」だったのである!!技もなんと武道家然としていることか!
…なんだかえらくなっがい話になってしまいましたが、これが今までの人生の中で、一番格の違いを文字通り肌で感じた瞬間だったのです。ちゃんちゃん。
普段生活している分にはさほど意識せずにすむし、万が一気づいたとしても心のどこかで「今のは例外」とか何とか強引な理由をつけてスルーしてしまうものである。というか、そうでもしないと生活から覇気が無くなってしまう気がしてどうしようもないのだ。
そんな「格の違い」だが、どうしてもその「ぬりかべ」みたいなまがまがしさから逃れられない状況というのは、人として社会に溶け込んでいる以上避け続けることは出来ない。
話は僕の高校時代に移る。我が母校、松山高校は東武東上線の下り方面にある男子校であった。埼玉の田舎の路線の、更に下り方面に在る男子校という時点で在校生男子諸君は去勢されたようなもんだが、上り方面には川越高校という男子校だが水泳部がウォーターボーイズのモデルというなんともモテそうな、そして実際女子受けの良い男子校があったため更に惨めだった。
そんな状況下で男が集まると、性欲の約8割は体力になる。そして、恋愛感情の約9割はスポーツマンシップになるのだ。よって我が校は県立高校でありながら他の私立の強化選手達と張り合う位部活が強かった。僕はそんな高校の空手道部に所属していた。校内にちゃんと専用の道場があるのだが、新人時代は道着を着させてもらえず、それどころか道場に入れてもらえず、ジャージ×はだし×駐輪場というMAXかっこ悪い境遇にさらされたが、それで女子にモテたり嫌われたりする恐れも無いので、皆が皆、なりふり構ってなかった。
そんなこんなで、僕たちはすっかりモテない感じになっていた。そして何より5ミリのボーズだった。
それ程に青春を粉にして稽古したにも関わらず、いや、した故に、その瞬間はやってきた。僕はその大会で組手の二回戦に進出していた。相手は県内の強豪、埼玉栄高校の選手であった。丁度先の関東大会で二位だった男だ。当時の僕は十代の男子であったので勿論血気盛ん。相手にとって不足無しと息巻いていた。相手のその選手は体格は如何にもアスリートといった感じであるが、礼儀や表情はいかにも武道家然とした穏やかさを帯びていた。はっきりいってかなりの好青年といった印象だった。
お互い目をあわせ、その後礼をし、構えの姿勢をとる。審判の「始め!!」の裂帛の瞬間、空気の質がぐうっと重くなった気がした。先ず、相手はサウスポーであり、間合いが取りずらい。が、僕の高校にもサウスポーはいたので、なんとなく突き出してる前拳を牽制しながらジリジリと間合いを詰めた。が、なかなかに構えが固い。こちらも攻撃を警戒している為、お互いしばし距離を探りあう形となった。
ややあって均衡を破ったのは相手の方だった。だが僕は警戒心をまだ解いていなかったためよけつつ間合いをとった、
その瞬間、
僕の脳裏を横切ったのはギャグにならない本物のバズーカだった。おかしい!いまのは刻み突き(ボクシングで言うジャブみたいなやつ)だろ!あれは…なんというか実害があるぞ絶対に!…とはいえ松高空手道部は攻めが基本、臆せばその瞬間に敗北を背負うのが我らの空手…!ひいてなるものかと勢いに任せて蹴り突きと放つものの、ことごとくかわされ、いなされていく…惨めだ!松山女子高校空手道部の皆さんも観ているかもしれないのにあんまりじゃぁないか!と大ぶりな上段逆突きを繰り出そうとしたその瞬間、相手の前足が僕の頭部左側へ
かっ
と炸裂した。もう一度括弧つきで言う。「かっ」と炸裂したのだ。高校の組手の試合はメンホーといって、透明な強化プラスチックで出来たフルフェイスヘルメットみたいなやつの着用を義務付けられているのだが、それを育ちざかり恋ざかりな男子が蹴ると大抵「ごばきゃ」とか「どべき」といった品のない音がするものである。だからいささかびっくりした。どうしてそんな音がしたのか全く理解できなかったし、衝撃もさほどなかったので本当にきれいにくらったのかどうかよくわからなかったからだ。
結局、そのまま時間切れになり、僕は何もできずに負けた(寸止め方式なのでノックダウンじゃなく、フェンシングみたいにポイント制なのだ)。普通の負けなら何くそと思って又稽古で取り返そうと思ったのだろうが、格の違いを知ったのはむしろこの後だった。
午後の団体戦にそなえウォームアップを終え、同期と練習しようとメンホーをつけようとした時だった。なんとメンホーが入らない。メンホーには立て横にベルトがついていて、それを調節して頭の大きさに合わせるのだが、通常はずす時は片方のベルトだけ外す。よって、さっきかぶれたのなら頭のさいずが変わらない限り入るはずなのだ。まさか頭が膨張したのか…と頭を気にすると、なんだか左の方が痛い。恐る恐る触ってみると驚愕!さっき蹴りを受けた部分が物凄く腫れているではないか!!そうか。一般男子の「ごばきゃ」「どべき」は「殺す」「死ね」だったのに対してかれの「かっ」は「殺せるけど殺さないよ」だったのである!!技もなんと武道家然としていることか!
…なんだかえらくなっがい話になってしまいましたが、これが今までの人生の中で、一番格の違いを文字通り肌で感じた瞬間だったのです。ちゃんちゃん。