わたしの友人に映画監督がいるんです。
実は、随分前に彼の製作する動画に
出演することになっていて
当日共通の友人と3人で待ち合わせたのですが
彼の寝坊でそれっきりになっていました。
実家にいた頃のなので十数年前のことです。
その後SNSで再会しやりとりしていると
恐怖ものの短編映画を作るので
よかったら参加しないか?という話になりました。
これは仕事というより趣味なので正直予算が無い。
何処で撮影するかということになり、
わたしの家族の所有する空き家を使うことになったのです。
電気も水道もガスも止められている空き家。
鍵を開けると埃っぽい臭いがする。
「勿体ねーな、俺、しばらく住んでいい?
光熱費払うからさ」
いいよ、火の元だけ気をつけてくれれば。
空き家だけど廃墟では無い。
元に戻せるならどう使ってもいいと家族が言ってくれたので
まず、廃墟っぽさを出そうと塗料などを買ってきて
あれこれと試すのだけれど、そう簡単に特殊メイクのように上手くはいかない。
彼のとった行動は・・・
掃除をしないで住む。とりあえずナマモノのような臭いの出るゴミだけは捨てていた。
2週間後に訪ねてみると、そんなに変化はない。
その間に彼はストーリーを考えながら本来の仕事も続けた。
そろそろ廃墟になったかな?と2ヶ月後に訪ねてみると
お風呂、トイレ、キッチンと水周りだけがやたら汚れが目立ってきていた。
「後、少しかなと」と彼は笑った。
更に1ヶ月後に訪ねてみると・・・
テレビや映画でしか見たことのない部屋になっていた。
髪も髭も伸び放題で、ちょっと怖かった。
ねぇ、なんだか顔色悪いよ。大丈夫?
「大丈夫だよ、この業界は不規則だから24時間営業中。いつものことだよ」
そうだよ、俺たちの仕事なんて計算するとバイト以下の時給で(笑)
あの時だってこいつ遅刻しただろ?寝るときは寝てるんだって。
気にするなって。と、共通の友人が言った。
それならいいけど・・・

なかなか仕事が忙しくストーリーも浮かばないようだったので
今回も無理かなと思い数ヶ月連絡も取っていませんでした。
あれからもう半年以上が過ぎていた。
師走に入り訪ねて行くと、目の下にクマを作った彼が
相変わらず髪も髭も伸び放題で出てきた。
「実はさ・・・最近ずっと眠れないんだ。寝ようとすると
風呂場、台所、トイレの何処からか凄い勢いで水が流れる音がするんだよ。
病院へも行ったけど特に原因は分からず、過労だろうってことで睡眠薬貰っただけ」
ねぇ、わざと廃墟を作るってやっぱり良くないと思う。
水周りには集まって来ちゃうから・・・
もうやめようよ!
大晦日に3人で集まり大掃除をした。
なんとか元の部屋に戻った。
そして彼は実家へ引っ越した。



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ありがとうございます。

このお話はフィクションとノンフィクションで
構成されています。

夏なのでね・・・
ふと思いついたので書いてみました真顔