一年の計は元旦にあり、なんて言いますよね。というわけで今年の目標のひとつがATRに乗ることでした。
思いついたときというのは夏を目前にしていましたけれども、まあ今のは心の綺麗な人には聞こえない言葉でございます。
しかしまあ真面目なハナシ航空券は安い買い物じゃないんですよね。予算の制約のなかで乗ろうにも、ATRが飛ぶ路線は結構価格帯がウエなんですよね。しかも行ったら帰ってこなければならないのがまた余計財布を圧迫します。前後日程の予定もあるのでそれに支障がなく、かつ予算内というので随分と頭を抱え、悩み悩んで結局日本初のATRオペレーター天草に乗ることにしました。
Q400を好む人としてはその差異も見ておきたかったので時折Q400と比較しながらレビューを書いてみた次第です。
簡単に天草エアラインを紹介しておくと、名前の通り熊本にある天草をベースに天草=福岡/熊本、熊本=伊丹の3路線1日10便をわずか1機のATRで飛び回る航空会社です。英語表記ではAMAKUSA AIRLINESと綴りますが読みは天草"エアライン"です。
対外では3レターコードをAMXとしていて機体にもそう書かれていますが、正式なAMXはすでにアエロメヒコが使用していることから運航上・書類上はAHXを使用しています。
当初は熊本発は天草のほかに松山があったのですがこれが神戸に変更、さらに伊丹へと変更されて今に至ります。
使用機材は創業当初はDHC8-100を使用していましたが、老朽化は避けられず日本で初めてATRを採用、2015年から運用が始まりました。
ATRはDHC-8の塗装デザインを引き継いでおり機体全体をイルカに模したユニークなものです。
ATRでは口角が僅かに上がって少し表情が柔らかくなり、またロゴも尾ビレの内側に移動しました。
デザインゆえ(?)人気もありTwitterでこの機の愛称である「みぞか」で検索してみると凄まじい量のかわいがるコメントが画面から転がり出てきます。
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・チェックイン
カウンターでの対面チェックインです。
スキップサービスで保安検査に行けるともチェックインしてくださいとも書いていなかったので(どこかには書いてあったのかもしれませんけど)一旦カウンターに立ち寄ることにしました。寄って正解でした。
というのは紙の搭乗券を渡され、これがないと乗れない仕組みだったのでした。日航から予約したのでコードシェア便名を書いたテープが貼られていました。
保安検査を抜け、案内を待ちます。
早々に保安検査を抜けるタチなのですが、抜けたとてトラフィックもないタイミングだったので制限エリア内を散策、気づいたら簡単ながらお土産を携えベンチに腰を下ろしていたのでした。栗の...えーとなんでしたっけな。なんかそういうすごい美味なお菓子でした。
熊本は売店が制限エリア内に集中していて外にはあまりなかったような気がします。
ただ出発ロビーはデッキに向かう通路から見下ろすかたちで見えるのでどんな店舗があるかはロケハンできるようになっています。
・搭乗
搭乗口で半券をちぎってもらい、そこからは徒歩搭乗です。
ジャバラの中を歩いてから機体へ入りますが、ステップの前でジャバラの外に出るので機体を撮ることは十分にできました。
ATR42-600 JA01AM
今日お世話になるのはもちろん01AMです。
JACの機体による代行運航は事前に期間を確認してから予約したのできちんと天草の機体に乗れました。
ドアをくぐって左に曲がると赤いシートがズラッと並んでいます。
後ろから乗るので、通路を進めば進むほど席番が降っていくのは少し不思議です。
今回はランディングギアがどれほど見えるか確認したいのと、エンジンのやや後方で音がどう聞こえるかなどを見たかったので中央近くを指定しました。
搭乗率はざっと半分くらいでしょうか。
日によっては満席だったり窓側が取れないこともあったのですがこの日はとなりも前も空席で開放的でした。
会社としては全便満席が好ましいのでしょうが、乗る側としては空いている方が気持ち的にも楽ですね。
全乗客が搭乗を終えドアクローズ、エンジンスタートです。
エンジンスタートといってもホテルモードなのですでにスタートしています。プロペラスタート(?)というのが正確でしょうか。
No.2はプロペラブレーキをリリースするだけなので、随分いきなりな感じを受けます。
酸素マスクの案内がないのは意外でした。
もしかして酸素マスクがない…?と思って安全のしおりを見たら、たしかにありませんでした。サーブと同じなんですねえ。
さて、タキシングが始まりました。
ゴスっという音がしますが、これはタイミングから見るにパーキングブレーキリリースの音でしょう。
767やCRJでも翼後縁付近に座ると聞こえる音です。
ターボプロップならではのタキシングサウンド、これはQ400にも引けを取らない良い音でした。
走り心地は、かなりサスが硬いというか、ゴリゴリ走る印象です。主脚が胴体近くについているのも一因でしょうね。
また排気口が目の前ということもありかなり景色はメラメラです。
隣接する高遊原駐屯地にはオスプレイがいました。
さて、いよいよ離陸です。
離陸時はいつもの「ポーン」が鳴るわけですが、これがベルトサインではなくとなりの電子機器マークが点滅するのには驚きました。
このサインはこの点滅のタイミング以外消灯しているのでついに撮れませんでした。
次回乗ることがあったら動画に撮りたいですね。
パワーが上がり、一気に加速します。加速力はかなりパワフルです。そしてゴリゴリ走ります。
ローテーションのとき床下から「ババババ」という振動がありましたが、767にも似たようなのがありますね。
離陸後はベイパーを引きながら上昇旋回、航空路を目指していきます。
Q400と比較して 〜機内騒音〜
搭乗時点でエンジンスタートしているのでたしかにQ400よりは騒がしいですが、仮にもQ400が同じ設計であればそうなっていたでしょうから特別どうこうということはありません。
Q400は地上走行中はPTUの音が機内に響きますが、それがないのは純粋にプロペラサウンドを楽しむという意味でATRに軍配が上がります。
プロペラ音自体はQ400はANVSというアクティブ系統の対策を講じたのに対してATRはパッシブ式を採用していますが、これは方法が違っても成果的には両者は大きく変わらないふうに感じました。
巡航
松山のやや南から徳島南部まで四国をナナメにぶった斬るコースを飛行。高度は確か17,000ftでしたかね。
(天草比で)飛行時間が長い路線なので、ジュースとお菓子が配られました。おしぼりもあるのはありがたいところ。
ここでテーブルを展開。出した後手前に引き出せるなど一般的な機能は備えていましたが、個体差らしく少し傾きがあったのでプロペラの振動と相まって重いジュースがだんだん滑ってきます。
ポケットはかなり不安(?)だったのでオヤツを賞味しながら目はジュースの移動を追っているというヘンな客の構図になりました。
ジュースのほうもたぶん少し不安だったんじゃないですかね。
なにはともあれジュースもいただきまして機内誌などに目を通します。
まぁもう有名すぎてあえて書くまでも無いと思うんですけど天草の機内誌はポケットタイプのファイルなんですね。
おすすめの店とかたくさん書いてます。
安全のしおり。酸素マスクの記述がないのにはお気づきでしょうか。
さてあっという間に高知・紀伊水道を経てアプローチコースへ。
少し雲も多く揺れが出てきました。
Q400と比較して 〜乗り心地〜
機体起因の振動はかなり少なく感じました。ターボプロップ由来のブルブルくる振動はATRのほうが抑えられているように思います。
気流に対する揺れは、これはATRはかなりクセがあります。本来は同時に乗り比べなければ比較にならないヨというツッコミはさておき、Q400も大概ですが、ATRの場合はなんというか揺れの収まり方がダイナミックなのです。ATRの特性というより気流のせいだったのかもしれませんが、雲に入った時の持ち上げられ方はQ400と同じですが抜ける時にかなりグワリと落ちます。Q400はかなりドシンと落ちるのに対してかなりユラつくので、そういう揺れが苦手な人は(気流が良くない時は)少し苦労するかもしれません。
なんというんでしょう、体幹が弱い、という例えが今のところ一番しっくりきますね。
オートパイロットを切った後は特に横揺れも全く不快な域からは程遠いのですがラダーの踏み込みをも感じます。
またフラップを出すときにもしっかりそれなりに持ち上がったりと、「飛んでいる」感覚は存分に味わえます。
Q400と比較して 〜機内設備〜
Q400と比較して大きく設備差があるというわけではありません。
個人的にシートの配置に着目すると、ATRでは窓側席では目の前にイスの脚がくるため、リュックサイズでも足元に荷物を置こうとすると隣の席のスペースを侵犯する格好になるのは少しやりづらい気はします。上の写真でもその椅子の脚にかなり難儀するのは認められかと思います。
Q400もかなりイスの脚が出張っているもののさすがに壁寄りで、これはQ400のほうがまだいいかもしれませんね。
また照明のスキマから配線が少し覗いたり、アレはどこがどうという訳ではないのですがどことなく無骨というか、粗組みしたような印象を受けます。航空機としてガッチリ組んではあるものの細部に至るまで作り込んでいるというよりも、壁の向こうに骨組みを感じるような、感想としては的外れかもしれませんが、軍用機っぽい、雑ではないが無機質な硬さのインテリアだなとは思いました。この感覚を言葉で言い表すのはかなり難しいですね。これは天草が、ではなくてATR自体が、だと思います。
シートカバーには絵柄が切り込んであるのがこだわりを感じます。
シートピッチは十分でした。格別狭いわけでもなく乗り降りには全く苦労しません。
座席番号が通路のほか壁にも貼ってあるのはなるほど、ビンだと近すぎて見えないのもあるかもしれません。
また禁煙シールも貼られていて代わりにPSUからはこのサインが消えています。
ドシンと音と振動があってギアダウン。めっちゃわかりやすいです。今までそこそこの機種に乗ってきましたが(目でわかるQ400は例外として)一番ギアダウンのショックを感じます。
機体はR/W32Rへ滑り込み、またゴリゴリと走って駐機場へ。ブレーキングはかなりソフトでした。
Q400の場合かなり減速率が大きいのでちゃんとシートベルトをしていないと体が前に滑り出ますが、この飛行機はそういう感じではありませんでした。エンジンはまたプロペラブレーキでピタッっと止まりました。
ベルトサインの消灯はJACのQ400と同じでエンジンを止めて仕舞えば消灯します。全日空のQ400は完全にプロペラが止まるまで消えないのでこの辺は興味深い差異ですね。
オーバーヘッドビンは開けると奥に滑り込む方式でした。Q400もそうですがこうすれば天井もスッキリして楽なわけですね。
駐機後、少しだけ前へよって前方区画を撮影。
かの有名な向かい合わせのボックス席をみることができました。
シートベルトはお馴染みAMSAFE社のもの。サンタにちなんで緑色のベルトが赤いシートと組み合わせられています。
48人乗りのコンパクトなキャビン。前方に貨物室があるため実際の機体長よりさらに小さく感じます。
あっという間のATR旅もこれでおしまい。名残惜しく機体を後にします。
このあとこの機体の風防にヒビが入って夕方から翌日夕方までは欠航になってしまったそうで、利用日が一日ズレたらあやうく乗れないところでした。
総じていうと、移動手段としての飛行機という意味では非常にいい機材でした。コンパクトで明るい機内ですし騒音も決して大きくない。ただ気流に対して正直なところやインテリアが妙に直感的に無骨な感じがしたのはいまだに咀嚼しきれていなくて、さながら現代アートを見た後のような、なんだか自分の思いがけない領域に本質がある気がしてそこはムズかしい飛行機でしたね。
うーん、ちゃんとおすすめしたり評価するにはまだ理解や勉強が足りていなかったようです。
しかし幸いJACやトキエアなどこれまでの馴染みのなさはなんだったんだというレベルに勢力が拡大しつつあるATR。これからまた乗る機会もあるでしょうから、その時までになんとか勉強してその感想を語れるようにしておきたいものです。
最後に天草エアラインについて。
みなさん乗りましょう!!この大手とは違った空気感の路線は雑誌で読んだ通りだし、でもその感覚は乗ってみないと味わえません。なんかどこでもいいから国内線に乗ってみたいという人にはおすすめです。
筆者は初めて乗りましたが、また乗ってみたいと思っています。
と、そんなふうに思い立ったATRの旅は新しい刺激を駆り立ててくれました。
また思い立ってあれこれ乗る旅も新たにやってみたいですね。

























