今回も(?)長いので前置きは置いておきましょう。

前回はエンブラエルを解剖しました。

今回はカナダのボンバルディア製DHC8シリーズの最新型Q400を解剖していきます。

開発経緯などについてはwikiとその参考文献を参照してください。
 

 

1.機体構成

Q400に限らずDHC8シリーズ全体に通じることですが、高翼T字尾翼+ターボプロップと日本ではなかなかみない構成になっています。

この設計のおかげで胴体を低くし、内蔵ステアのみでの乗降が可能になりました。

 

ここからはそれまでのDHC8の仕様も織り交ぜつつQ400の詳細を眺めてみましょう。

 

 

2.主翼・補助翼系統

主翼にはエンジンを挟んでインボードフラップとアウトボードフラップがあり、アウトボードフラップに沿ってグランドスポイラー・フライトスポイラーが各一枚ずつ配置されています。さらにフラップの外にはトリム付きのエルロンが配置され後縁全幅にわたって動翼が配置されています。

前縁スラットはなく防氷用の黒いブーツが嵌め込まれています。このブーツはエンジンからの圧縮空気により膨張することで付着した氷を粉砕します。

尾翼はT字型配置になっており、垂直尾翼は(このクラスの機体には珍しく)ラダーが2段折れ、水平尾翼はエレベーターが一段折れで動作します。

なお水平尾翼ではエレベーター以外は固定となっていて全遊動式ではありません。

在来型の尾翼と見比べると頂部の前方へ飛び出すフェアリングが追加されたり、後方頂部の切り欠きがなくなるなど極めて大胆な設計変更が行われているのがわかります。

小型機では定番のドーサルフィンも装備されていて、内部をエンジンからのブリードエアが通るダクトが走っています。フィンの中程に三角に切り込まれた吸気口がありますが、これは冷却空気取り入れ口です。

補助翼と並べるのはやや違う気もしますが、胴体後部には気流を整えるため比較的大型のストレーキが装備されています。位置などから考えるとF-2のストレーキとも同じような機能を持つと考えられます。

 

グランドスポイラーは接地後機体を確実に地面に押し付け速度を減じる役割をもち、フライトスポイラーは170kt以下でエルロンと連動しロール操作を補助します。

見づらくて恐縮ですが、上の写真においてはウイングローのため左方向へのロール操作が行われています。エルロンとともにスポイラーが上がっているのが見えます。

スポイラーはFLIGHT/TAXIスイッチによってそれぞれのモードに切り替えられます。

このスイッチをFLIGHTに切り替えると、スポイラーはその名の通り「上空モード」になり、

①スラストレバーがフライトアイドルから12°未満

②WOWが接地を判断*

(*WOW…Weight on Wheelといって、主脚が接地後ショックストラットにより沈み込んだのを検知するとコンピュータが「機体が地上にある」と判断する仕組み)

③FLIGHT/TAXIスイッチがFLIGHTモードを選択

 

以上3つの条件を満たした場合にスポイラーが自動的に作動するようになっています。

このシステムは着陸時にパイロットがスポイラーを操作しなくても自動的に作動させるためのものですが、このスイッチは滑走路に入る時点で(遅くとも離陸滑走を始める時点で)切り替えなければならず、万一切り替え忘れるとスロットルがフライトアイドルから12°を超える位置まで押し込まれた時点で自動的にFLIGHT側に切り替えられます。

離陸前にFLIGHTモードに切り替えると、たまたま上記の3条件を満たすことになりスポイラーが作動します。

離陸滑走が始まれば条件①を満たさなくなりますから(コンピュータに言わせればゴーアラウンドの為にパワーが入った、という感じでしょうか)、スポイラーは格納されます。

なお-200と-300型についてはフライトスポイラーのみを装備するためそもそもグランドスポイラーをもちません。

 

3.胴体構造と装備品・機能

Q400の機首部はシリーズを通して共通のデザインになっています。

コクピットウインドウは4枚で、その全てが固定され開けることはできません。

万一脱出の必要が生じた場合にはコクピット上部にあるハッチを開けて脱出します。

なおフライトデッキはQ400ではグラスコクピット化されていて在来型との資格は非共通です。

DHC8全体に言えることですが、設備の十分でない空港での運用を見据えて客室床面の高さは低めに設計されており、ドアを開くとそのままステアになる仕組みになっています。

ドアのステアは展開した状態で最下段が地面から14〜15cmというところに来ます。階段の14〜15cmはいささか大きいので日本のエアラインでは階段付きの車をステアに接続するかたちで乗りやすいように工夫しています。

ドア配置にはいくつか種類があるものの、日本では主にL1がType-I,L2、R1とR2がType-IIの場合がほとんどです。

Q400で特徴的なのが右側非常口です。

R1ドアの縁がうっすら見えると思いますが、非常口になっているのはここではなくその後ろ、青色で囲まれた線のドアになっています。このドアはType-II/IIIといって、上半分がType-III,下半分がType-IIでそれぞれ分割し上下に観音開きになる独特な仕様になっています。ディッチングの際は上のみを開けて脱出を行うことが想定されています。

なおQ400CCではType-II/IIIではなく前方のType-IIを使用することになっています。この機種に搭乗した方のブログを拝見したのですが、II/IIIがあるところはそもそも非常口ですらなく、やや窓が離れたところに変な枠がついてはめられている不思議な席になっていました。また12列目に非常口が追加されているのもコンビ型の特徴です。

胴体が低いぶん床下貨物室はなく、客室の後方に貨物室があります。もちろんバラ積みです。寸法としては縦1.5m×横1.3m(開口部の実測ではなく、飛び出した部品の長さを差し引いた実際に出し入れに使える寸法)なのでほぼ正方形の形をしています。カーゴドアはサーブのような引き込み方ではなくハンドルを回してロックを外した後上に跳ね上げる方式が採用されています。

 

続いて灯火類を観察します。

基本的に翼端の航法灯は常時点灯していますが、エンジンスタートの前には胴体上のアンチコリジョンライトが点きます。こちらは他の旅客機のような明滅式ではなく回転式を採用しています。回転式なので明暗はありますが完全に消灯することはありません。

離陸前〜着陸直後には回転式アンチコリジョンは停止し、代わって胴体下部と垂直尾翼頂部の白色フラッシュライトが点滅します。

こちらは自動ではなく手動で切り替えます。

回転式とフラッシュライトは同じスイッチで管理するため双方が同時に点灯することはありません。

ランディングライトは両エンジン外側に2灯ずつ、前脚に1灯が装備されています。

 

4.ギア

ギアは機首下部に1つ、左右エンジン下に1つの計3つをもちます。全て左右一組のタイヤです。

ノーズギアには2本のタイヤと、脚部の最下段のグレイの箱(WOWセンサーケース)、そこから飛び出したトーイング用フック、着陸灯などから構成されています。

ステアリングはラダーもしくはチラーによって行い最大70°での転回が可能です。

メインギアはタイヤ2本と主に2本の支柱からなります。構造は在来型より簡略化されました。

在来型のものと見比べると脚部の太かったフェアリングが細くなったのがわかります。

またギアドアの開き方も片開きから両開きに変更されました。

格納する際は前脚は前方の、主脚は後方のギアドアが開きそれぞれの方向へと振り上げる形で格納されます。

 

5.エンジン/プロペラ

エンジンはPWのPW150Aです。最大5071shpというATRの2倍以上の高馬力でQ400の高速性を支えています。

3段軸流圧縮機を備えている点が従来のPW100から変更された点であると言えます。

他機種と違うところとしてエンジンのコントロールにふたつのレバーを使用する点が挙げられます。そのうちの一つ、パワーレバーはスラストレバーに相当しますが、加えてエンジンへの燃料流入量を調整するコンディションレバーは独特の装備です。パイロットはエンジンの起動からシャットダウンまで、場面に応じてこのレバーを操作し適切なエンジン動作状態を維持します。

FADECは装備されているもののオートスロットルはないため、着陸時などは常にパイロットが適切な出力になるよう手動で調整し続ける必要があります。

 

給油は右エンジンナセル後方にあるパネルを開いて行います。

プロペラはダウティ社製R408可変ピッチプロペラでエンジン1発につき6枚を装備しています。

先端の形状が尖っている点やプロペラ自体がねじれた形状なのが特徴的です。

また万が一のプロペラ飛散に備え真横に当たる胴体部分はプロテクションプレートが貼られており、容易にブレードが機内へ貫通しないように、またプロペラから飛散する氷から胴体を守る役割もあります。

根元を見ると可変機構を見ることができます。
推力に応じてこの根元の角度が変わり、プロペラの角度(プロペラピッチ)を変更することができます。

真横から見ると状態に応じたピッチ変化が見えます。

 

在来型では4翅式で、プロペラ自体のデザインも違います。YouTubeなどで検索していただくと全く違うエンジン音を聴き比べられるのでぜひ。

Q400はサーブやATRと異なりAPUを備えていますが、機高が抑えてある分排気が出来るだけ地上に影響しないよう上を向いています。

 

6.アンテナ等

続いてアンテナです。

特にQ400特有のアンテナがあるわけではありません。

VHFは後期の機体でより後退角の大きいモデルに変更されましたが、既存機へのレトロフィットは(少なくとも全日空において)確認されていません。

垂直尾翼にはVOR/LOCアンテナがありますっかくなので他の部品類もちょくちょく書いてみました。また主翼より後方はドーサルフィンが伸びているためアンテナ類はありません。

胴体下には主に対地上航法装置用受信機類がまとめて配置されています。

機種周りは比較的すっきりしていますが、アクセスパネルが多いのが特徴です。

先端のレドームには気象レーダーとグライドスロープアンテナが収められ、背後の大きな2枚のドアの中にはバッテリーなどが格納されています。

 

7.キャビン

最後に客室を見てみましょう。

DHC8のQシリーズでは騒音低減のためNVSというシステムが搭載(騒音周波の対極周波=位相波を発生させ波を打ち消す)されているのは広く知られています。

このシステムを構成する各種装備品のうち目立つのが集音用マイクロフォンでしょう。

極めて小さいのでわかりづらいのですが、このマイクが機内のあちこちに設置されていて機内騒音の解析に役立ちます。

 

CRJでは700以降がNG(Next Gen)でしたが、Q400の場合製造途中からNG型に切り替えられており、キャビンのリニューアルがメインで行われました。

上が従来型、

こちらがNG。座席のことは全日空の仕様なので触れないものとして(一応言っておくと、シートが布ではなく革になった)、照明が大きく改善されています。

曲線的なデザインで広がりを演出しているのはもちろん、実際に機内における胴体幅は2cm拡張されるなど「マジで」広がった空間になっています。

またオーバヘッドビンの容量も増したことで収容できる荷物の量が増えるなど乗客側としては嬉しい改良となっています。

なお在来型にあった最前列の対面席はQ400にはそもそも見られなくなってしまっています。

 

非常口を示すサインもNG型かどうかによって形状が異なります。

 

3つのランプが点灯していますが、うち右はラバトリーに鍵がかかった際に使用中と表示するためのものです。

胴体中ほどの天井にも取り付けられています。

 

シートベルトは会社によって「Q400」の刻印が入っている場合もあります。

 

 

さて、今回もキャビンはだいぶあっさりと済ませてしまいましたがQ400を解剖してみました。首都圏の方々にはなかなかご縁のない機体なのですが、乗る機会があったならばぜひ隅々まで堪能していただければQ400信者の筆者とQ400が大変喜びます。

次回はどの機種を解剖するか未定です。気が向いたら、ということで今回はここまで。

 

写真を提供くださった「いかるが」氏にも末尾ながら御礼を申しあげる次第である。