「東京より憎しみをこめて 1」感想 | self-complacency

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ライトノベルの感想を書いてました。

東京より憎しみをこめて 1 (星海社FICTIONS)/講談社

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政界・官界・財界を巻き込んだ一大スキャンダルの贈収賄事件の容疑者として検察に逮捕され、瞬く間に“日本国民の敵”へと仕立て上げられた経済産業省の役人・月成拓馬。
有力任侠団体、海音寺一家の総長である父親の有罪判決を引き金に、警察とマスコミに自らの夢を奪われた海音寺詩乃。
キャリア官僚と極道の娘――。絶望の淵に突き落とされた二人が出会い、裏社会から表社会への壮大な“復讐劇”が開始される……。
至道流星入魂の新シリーズ、ここに開幕!!

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経済産業省にてキャリア官僚を務める青年、月成拓馬は実直に仕事に励む日々を送っていた。しかし、そんな平穏な生活は脆くも崩れ去る。いきなり経産省に大挙してやって来たのはなんと検察庁の人間たち。拓馬が立ち上げ、倒産させてしまった会社『ニームエレクトロニクス』を通じて震災復興費の不正利用、議員への贈収賄を行った。その容疑で拓馬を逮捕するのだという。検察と経産省の者たちから取り合いになり、それに耐えかねた拓馬は、大人しく検察庁の人間についていくことを決める。それが将来をドン底に突き落とす選択だとは微塵も思わずに……

「童貞」を指摘されただけで全てを知られていると勘違いして動揺し、正気を失う拓馬ェ… リアリティはないけど笑った。読みやすくなって序盤の掴みとしては好印象。
メディアにて散々な報道をされ、拓馬は一躍時の人となってしまった。そんな人間を企業が採用するはずもなく、就職どころかバイトすらまともに受からない始末。心が折れそうになりながらそれでも頑張る拓馬は偉かったと思う。まあ途中折れたからアレだけど。
無罪の判決がなされた後も報道はほとんどされず、世間から拓馬へのイメージがよくなることもなかった。妹の千夏にもお金を借してもらうなど支えられるものの、一向に良い道は見えて来ず。日雇いのバイトで食いつなぐ生活が辛くなり始めた拓馬はついに、高時給の危険なバイトへ手を出し始める。

絵に描いたような、いや、それ以上の拓馬の転落っぷりには同情を禁じ得ない。濡れ衣なのにここまでやられるなんて可哀想すぎる…… 自殺したくなる気持ちも分かるわ。
もともとが優秀である点は違うけれど、落ちるとこまで堕ちてバイトから危ない仕事まで手を出す辺り他人事とは思えない……(汗) 時給が高ければそれ相応の大変さとリスクがある。楽して稼げる仕事なんて世の中にはないんだと改めて実感。

メディアの報道、それらに類するものから発される情報が必ずしも真実とは限らない。所詮金と権力で情報操作なんて簡単に出来てしまうのが現実だからね。そういう情報を鵜呑みにしないよう気を付けないと。

一方、ヤクザとして力をつけ確たる地位を築いた派閥、海音寺一家。逮捕された父の裁判にて、無期懲役が確定した。その判決を半ば当然だと受け止めながら、海音寺詩乃は今後の組の在り方について思案する。

細々と絵描きの仕事をして収入を得ていた詩乃。自分の好きなことをして生きていけるのなら多少貧しくても構わないと思うほど、満足した生活を送っていた。檻の中の父に代わり組員をまとめ、改めて家業を再開しようとしていた矢先、御堂、足立の二名が警察に捕まったとの報せが入る。そしてついには詩乃の家にも家宅捜索が入ることに。

何より絵が好きな詩乃にとって、自らの絵を否定されることはさぞ辛かったろう。ヤクザであるという直接関係のない部分を理由にされているのがまた酷い。生まれなんて自分ではどうにも出来ない、だからこそ詩乃は悔しくて涙を流したわけで。ヤクザ=悪であるというレッテルを貼り、叩く。そんな思考停止で単調な人間にはなりたくないな。けどやはり、現実は厳しいか。

そして今、元官僚と極道の娘という出会うはずのない二人が出会い、新たな道を共に歩み出そうとしていた。「復讐劇」ってテーマがすごくいい。やっぱ至道先生にはこういうダークな題材の方が向いてる気がする。どこまでやってくれるのか、やりすぎくらいな展開に期待しております。12月に二巻とか相変わらず刊行ペース早くて嬉しい。面白かったから打ち切りにならず、ある程度続いてくれることを祈っております。

イラスト担当はあきさん。この物語にとても合うかっこいい絵を描かれる方だなぁ、と。拓馬以外の男キャラもまたいい味出してるのですよ。赤星、矢島辺りをまた挿絵で見たいなー。