前回は、要因分析の前提となる資料について主に言及した。今回は、内容面について述べたい。

 

 今回の調査研究は、こどもの自殺であるが、ここでいうこどもは「こども基本法」に従う「こども」ではない。道府県が試験的に行っている「CDR」の資料収集ができなかったために、文科省の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(改訂版)にもとづく基本調査をベースにしている。つまりは、学齢期の児童生徒の自殺が対象になっている。この背景調査の指針に関するものが、これまでも報道(筆者の記事を含む)でも多く取り上げられてきた。

 

子どもの自殺411人で最多水準 「望ましい」はずの詳細調査は少数:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASRB37DHBRB3UTIL02P.html

 

子どもの自殺実態に関する文科省調査がひそかに終了、正確な「原因把握」に疑問の声|弁護士ドットコムニュース https://www.bengo4.com/c_18/n_16385/ @bengo4topicsより

 

 もちろん、調査の対象は、大前提として、警察や病院の医師が自殺と判断した、というものだが、自殺と判断されなくても、遺族が自殺の疑いを主張しているケースもある。例えば、遺書がなく、学校内での不自然な転落死のケースはそうだ。しかし、学校で「自殺または自殺の疑い」とは判断されにくく。調査がされないことが多い。このようなケースでは、「学校事故対応の指針」にもとづく調査がされている可能性がある。そのため、調査対象として検討していく必要がある。

 

 そのため、新しい視点を探すことになる。

 

 「2 これまでの自殺対策と自殺研究」という項目がある。JSCPのホームページの項目「自殺対策の歩み」にもあるように、本格的な自殺対策は、2006年の自殺対策基本法以降だと述べている。たしかに、国の大きな流れを作ったことは間違いないが、それ以前の取り組みには触れていない。

 

 特に、1970年代に、子どもの自殺の取り組みについては触れていない。総理府青少年対策本部が77年に「青少年の非行問題に関する懇話会」が設置された。ここで自殺の調査研究を行っている。79年には総務省に「青少年の自殺問題に関する懇話会」が発足し、6月に「青少年の自殺に関する研究調査」をまとめている。12月には「子供の自殺防止対策について」を提言。81年7月には「こどもの自殺防止のための手引書」を作成している。この流れについてはなぜか言及がない。

 

 ただし、「2 これまでの自殺対策と自殺研究」で評価すべき点があるとすると、従前の自殺対策は自殺つ者数の中で多くを占める中高年男性を中心とした対策に傾斜してきたことを歪めない」との記述があることだ。たしかに、2006年以降、日本の自殺対策(民間を含めて)は、その通りだった。子どもや若者の自殺対策に目を向け始めたのは「SOSの出し方教育」を検討し始めて以降だが、社会的には、2017年の座間男女9人殺人事件で、Twitter(現在の「X」)で「死にたい」などと呟いていた人がターゲットになったことを踏まえてSNS相談が始まったことによる。こども家庭庁ができるまで、政府内でも、JSCPでも、私が知り限りでは、子どもや若者に目を向けた施策を充実させようという動きが見られなかったといった印象を持っていた。その意味では、数々の自殺した子ども、特に近年の明らかな増加傾向を犠牲にしたことは前提ではあるが、このフレーズを取り入れたことは評価できる。

 

 

 内容面で見てみると、文科省の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(改訂版)に基づいて、学校や学校設置者が作成した基本調査をもとに分析している。分析のために収集した対象は図の通りだ。

 

 

 2019年は4月から12月だが、それ以降は1月から12月が対象になっている。これは、2019年3月まで、文科省は「子供の自殺の実態分析」を行っていたが、中止になったことが影響していると思われるが、そのことの考察はない。

 

 ただ、これまでの基本調査の分析で、文科省が公表してこなかった(実際に集計していないかどうかは不明)点がある。それは。

 ・ 学校の出席状況

 ・生前の自殺関連行動について、周囲に気付かれていたか

 ・自殺直前にあった(あるいは直後に予定されていた)出来事

 ・遺書の有無 

 ・原因・動機に関する言及

 ・第一発見者

 これらを明らかにした点は評価したい。

 

  学校の出席状況については、図の通りだ。

 

 「以前と変わりなく出席していた」児童生徒が44%いたことが明らかになった。基本調査は、児童生徒が自殺した時点で学校が収集している資料をまとめたものであるので、比較的、客観的なデータであるだろう。全体から見れば、不登校状態や長期欠席の末に自殺するよりは、「以前と変わりなく出席していた」児童生徒が多い。その意味では、衝動性を関連づけると読むこともできるが、一方で、自殺を考えているからといって欠席をするわけではないとも読み取れる。

 

 また、自殺の危機について周囲が気がついていたかどうか。

 

 

 

 

 「保護者や学校が気づいていた」のは13%。

 「友人が気づいていた」は5%。

 「何らかの変化は気付かれていた」は15%。

 「気付かれていない」は21%。

 「記載なし」は48%。

  「記載なし」が最も多いのは、基本調査のフォーマットが統一されていない点があるだろう。以前、文科省が実施していた「子供の自殺実態分析」では、統一フォーマットになっていたが、「児童生徒の事件等報告書」で自殺の第一報をするようになってから、自由記述になった。これらのことが「記載なし」に影響したと思われる。

 

 「自殺直前にあった(あるいは直後に予定されていた)出来事」については

 

 

 

 「前日から翌日の間」は25%。

 「前後三日以内」は6%。

 『前後1週間以内」は8%、

 「前後1ヶ月以内」は3%。

 「出来事なしと記載」は1%。

 「記載なし」が57%。

 「記載なし」が多いのは、前述のように統一フォーマットを中止した点ことが影響しているだろう。ただ、「前日から翌日の間」が最も多い。こどもの自殺は衝動性があると受け止められるのはこの点が目立つからではないか。学校問題で考えれば、いじめのほかでは、生徒指導や進路指導、テストなどが考えられるが、学校問題が絡んだときには、学校や学校設置者の調査では限界がある。

 

 原因・動機についての言及は、

 

 

 

 基本調査で「原因・動機についての言及」がされているのは、「報告者の見立ての記載あり」が1%。「関係者の発言のみ記載あり」が10%。「不明との記載あり」が31%となっている。そして「記載なし」が58%となっている。文科書が実施している「問題行動・不登校等調査」では、「自殺した児童生徒が生前に置かれていた状況」で、約6割が「不明」となっていることを考えると、「不明との記載あり」の31%と、「記載なし」の半分が、最終的に「不明」になっているということなのかもしれない。