こども家庭庁の委託事業「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究報告書」が公表されました。これは「こどもの自殺対策緊急強化プラン」にある「要因分析」という政策を、一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」(JSCP)が受託したものです。

 

 

 まず、全体として、JSCPが収集した資料は、(1)警察庁の自殺統計、(2)消防庁の救急搬送データ、(3)学校や教育委員会、地方公共団体等が保有する自殺に関する統計及び関連資料ーだ。ただし、今回の調査研究では、(3)を主に使用している。つまりは、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」にもとづく基本調査と詳細調査、CDRの死亡検証結果を対象にしている。しかし、(3)は、個々のケースの自殺要因を特定する情報が含まれていない。またCDRの死亡検証は提供されなかった。その意味では、目的である詳細な要因分析はできなかった、と言っていいだろう。

 

 なぜそうなったのかは明らかな点で言えば、今回の調査報告では分析していないものの、(1)は、警察があくまでも、事件か事故か自殺かを捜査する警察官の判断でチェックされるものであり、自殺と判断すると、そのタイミングで知り得た事実を整理するに過ぎない。警察官はあくまでも自殺対策としてはプロではない。また、聞き取られる遺族からしても、将来にわたって自殺対策に役立てるための統計をつくる捜査だとは考えていない。その意味では、そもそも(1)を自殺対策として利用できる部分は限られている(例えば、件数、都道府県や市町村別データ、男女別、自殺時間、自殺場所、自殺の手段、自殺未遂歴など)。主観的なデータ(原因・動機)は、心理学的な分析(心理学的冒険など)はされていない。しかも、あとで原因・動機が別のものと分かったとしても、確定値を出したあとの修正はされない。

 

 (2)は、あくまでの「自損行為」の件数はわかるが、職業別のデータになっていない。そのため、このデータからわかることは、自損行為によって搬送された件数(全体、男女別、年代別)である。そもそも、「自損行為」が「自殺企図」なのか「事故」なのかのはっきりとした区別はできていない。「自殺企図」だとしても、「死亡」か「未遂」かまでは統計データにない。「未遂」だとしても、「非自殺性自傷行為」か「自殺の意図」があったかどうかはわからない。ここからわかるのは、搬送された件数であり、搬送されない「自損行為」は見えていない。

 

 (3)としても、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」にもとづく基本調査と詳細調査が実際にどのようにして作成されているのかを前提としていない。基本調査の場合、学校や学校設置者が調査をし、報告書を作成することになっている。

 

 

 しかし、この表記はあくまでも指針上の理想的な流れが記述されているだけ。現実にはどのように作成されてきたのか、過去に遺族や報道が明らかにしたことを踏まえていない。調査調査についても同様だ。いずれにせよ、学校生活を起因とした自殺の場合は、いじめについても、いじめ対応で不適切なものがあったとか、不適切な指導をきっかけにした自殺の場合は、学校や教育委員会が調査対象としての当事者になりうるため、調査そのものが困難になるが、その前提がない。

 

 また、今回の分析では、2019年4月から2023年12月までの資料を収集したことになっている。2019年3月までは、文科省は「子供の自殺等の実態分析」を行っていたが、調査は中止になり、それまで行っていた「児童生徒の事件等報告書」で第一報を報告することになっている(ただし、全件ではない)。「子供の自殺等の実態分析」は、チェック蘭があったが、「児童生徒の事件等報告書」では自由記述のため、統計として使用できるかというと難しい。報告書では、その点についても言及されていない。

 

 いずせにせよ、今ある統計資料を集めても、そもそもが、CDR以外は、自殺対策に役立てるために作られていないのが現実である。もちろん、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」にもとづく基本調査と詳細調査は、自殺対策に役立てることもできるものだが、教職員間で共有はされず、かつ、統一的なチェック項目があった「子供の自殺等の実態分析」は中止されている。これでは、既存統計資料から、読み解くことは、最初から限界があったと言える。

 

(つづく)