刑法の性犯罪に関する規定の見直し議論がされています。基本的な議論は法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」で開かれています。この検討会の議論で見落とされがちな論点があります。それは、現在の「強制性交等罪」には、「男性器(陰茎)」が介在することが絶対条件になっていることです。これは、性のあり方をめぐる多様性の議論があるにもかかわらず、その被害については、見逃されがちな点になっています。9月23日、院内集会で、性的マイノリティの性被害の問題を想定した刑法改正をするように要望しました。主催した「BROKEN RAINBOW - JAPAN」は、法務省に要望書を提出しました。

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法務省:性犯罪に関する刑事法検討会 www.moj.go.jp

 もちろん、「男性器(陰茎)」以外の身体の一部および器具・異物を使った場合、強制わいせつ罪になることがあります。しかし、それらの「男性器(陰茎)」以外の身体の一部および器具・異物で「性的に侵襲・挿入される/させられる」ことを強制されたとしても、強制性交等罪にはなりません。

 改正議論の論点のひとつに、強制性交等罪には、現行では「暴行・脅迫」要件があります。恐怖のあまり、きちんとした抵抗ができない場合があります。そのため、加害者側の明かな「暴行・脅迫」がなくても、同意がないとみなされれば、強制性交等罪とする議論がされてきています。しかし、これは、あくまでも、「男性器(陰茎)」を用いることが前提の議論になっています。

 同意なき性交は、恐怖を伴うものであり、心理的な、または身体的な負担が大きい。ただ、性的被害の類型として、「挿入される/させられる行為」が「男性器(陰茎)」を使っての場合かどうかで、違うものなのでしょうか。例えば、手や指、拳、道具を女性器に挿入されたり、させられた場合でも、被害者視点からすれば、「強制性交等罪」と同様な心理的な、または身体的な負担、そして恐怖心を伴うことが言われている。

 もちろん、この論点は、第2回目の検討会でも、ヒアリングの対象になっていました。

法務省:性犯罪に関する刑事法検討会 第2回会議(令和2年6月22日) www.moj.go.jp

 この論点については、今に始まったものではありません。3年前の刑法改正議論のときにも取り上げられました。当時、私も記事にしています。

定義がいまだに大正時代?刑法における「強姦罪」見直しの問題点とは (1/2) 現在でも”性交”の定義は大正時代の判例強姦などの性犯罪の法定刑を見直す刑法改正案について、政府は、「現行の『強姦罪』」を『 blogos.com

 この記事でもインタビューを、BROKEN RAINBOW - JAPANの岡田実穂さんにしています。岡田さんは検討会の2回目でもヒアリングをされています。この記事でも以下のように話していました。

 「『性器』の定義は誰がするのか。ディルドはどうなのか?性器とは何か、十分に議論もないまま、被害者が立証しなければいけない。合意を得ない形で性的な挿入行為をされた/させられた事実を明確にすべき」

 前回の刑法改正では、この問題について、直接的な法文上の規定はありませんでした。しかし、参議院で、以下のような付帯決議がつきました。

強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ、被害の相談、捜査、公判のあらゆ る過程において、被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしない ことを、関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること。(刑法の一部を改正する法律案に対する附帯決議   https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/193/f065_061601.pdf)

 しかし、この論点が、検討会の議論から、抜け落ちそうな気配があるとのことです。そのため、9月23日、緊急院内集会「想定されず、軽視される被害 被害の実情を反映した法制度を」が開かれました。主催したのは、岡田さんも参加しているBROKEN RAINBOW - JAPANです。

LGBTIQへの暴力を終わりにしよう。 多くのLGBTIQが、様々な相談機関や警察、司法機関、病院等で被害を被害とすら認められることなく、二次的加害にあってきた現 broken-rainbow.jimdofree.com

 代表の宇佐美翔子さんは「刑法の性犯罪規定に関しては、3年見直し規定があり、その3年目が2020年です。今回も検討会でヒアリングがなされていますが、性的マイノリティの被害実態は議員にはなかなか届きにくいものです。審議は永遠に続きません。時間に限りがあります。そして、その日が近づいてきています。このままではいけないと、(院内集会は)緊急開催となりました。この機会をもって軽視されやすい被害、性的マイノリティの被害実態、当事者の声を届けたい。法改正につなげたい」と挨拶しました。

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 被害当事者の発言がありました。3者3様ですが、刑法改正の議論では、異性愛者のみを性被害を想定ているのではないでしょうか。または、トランスジェンダーの性被害を前提としていないのではないでしょうか。あるいは、多種多様な性被害があることを見逃しているのではないでしょうか。

 「暴力的なトランス男性と付き合っており、別れ話をしようと思っていた。『今日こそは別れ話をしよう』『今日こそは...』『今日こそは...』と思い、ついにその日がやってきました。部屋のドアをノックされたとき、私は包丁を捨てました。なぜなら、逆上したら殺されるかもしれないと思ったからです。しかし、その日、私は、相手から、手や指、拳を使ったレイプ被害に遭いました。それは私にとっては...(涙ぐみながら....包丁か拳か。どちらを選んでも恐怖の選択だったのです。
 生まれたときには男の子でしたが、5歳くらいから性別に違和感を抱きました。
そんな中で、12歳で性暴力遭いました。場所は市立図書館。無知らぬ若い男にエレベーターホールに連れて行かれ、体を触られた。ナイフを突きつけられて、殺されると思ったのです。その後、図書館を出て、ユニバーサルトイレで強姦されました。(性別に違和感を抱いているの私の被害は)女性の性被害よりも軽いものではないか、言ったとしても誰にも理解されないのではないかと思っていました。しかも、性暴力があっても、(性別に対する違和感など)多くのことを説明しないといけない。そのため相談しにくいのです。このときの被害は、男として被害をうけたとは認識していないのです。
 私は、いまから8年前に手術して戸籍上の性別を変えました。性的指向は男性です。こうしたトランス男性のゲイは、なかなか出会いの場がありません。そのため、掲示板があるが、性的欲求を満たす人が多い。しかも、私はホルモン治療をしています。すると、性欲が増します。そのため、掲示板で出会った人とホテルへ行くことになります。しかし、相手方は豹変したのです。望んでいない暴力的な性の強要をされます。相手方は無理やり挿入してきました。コンドームなし。戸籍上は男性、下半身は女性器のようになっています。。こうした場合は、性病検査や医療保険で想定されていない。十分な支援につながった当事者の声はほとんど聞きません。黙っているといないことにされてしまいます。

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