日本学術会議が、スポーツ庁に、スポーツに関する提言を行った。共同通信が伝えていましたが、スポーツと暴力といえば、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部のキャプテンが、顧問の体罰と暴言によって自殺した事件を思い出します。しかし、この事件などについて、具体的な出来事をどう捉えているのか、記事ではわかりません。暴言はどこまで触れているのでしょうか。

「暴力なくし、科学的指導を」

日本学術会議、スポーツ庁に提言

 

2020/6/18 19:41 (JST)6/18 19:51 (JST)updated

 

 国内の科学者を代表する組織の日本学術会議は18日、スポーツ庁の鈴木大地長官に対し、暴力をなくし、科学的な根拠に基づく指導法を開発することや、練習などに関するデータを国立スポーツ科学センター(JISS)に一元化することをまとめた提言書を手渡した。スポーツ庁は2022年度からの第3期スポーツ計画策定で、内容を生かす方針。

 

 日本学術会議はスポーツ庁の協力要請を18年11月に受け、審議。提言では「科学的な根拠に基づいて、スポーツを再定義する時期に来ている」とした。

 

そこで、日本学術会議のホームページで、提言をみてみました。

 

 提言「科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方- Evidence Based Sports for Diverse Humanity (EBS4DH) -

 

 「5スポーツの拡大と課題」の中で、「⑸スポーツと暴力」という項目があります。

 

 現代のスポーツは競技の意味合いが大きく、「相手を倒す」ことを目的とするがゆえに、暴力との親和性が高くなりがちであり、スポーツにおける暴力の根絶は容易ではない。本提言における「暴力」とは、肉体的行為だけはなく、暴言や傍観をも含むものと定義したうえで、本委員会での議論を以下整理しておきたい。

 永富らによる宮城スポーツ少年団のアンケート調査結果(有効回答:7,333 人)からは、1 指導者の威圧的指導とスポーツ傷害の間には相関があり、2 男子には身体的暴力、女子には暴言が多く、3 これらの暴力に影響する要因としては、活動回数、試合頻度、暴力を受け入れる風土、指導者の学歴や指導歴、アスリート時の経験、先輩の存在が有意であることが示された[60、61]。

ここで統計学的に最も有意であったのは、指導者のアスリート時代の身体的暴力経験、及び暴力・暴言を受け入れる風土の2つであった。それぞれのオッズ比(その確率を pとした場合の p/(1-p))は 2.71 と3.89 であった。暴力・暴言を受け入れる風土に与える指導者の影響が大きいことは容易に考えられるため、スポーツの暴力に対して最も大きな影響を与えるのは指導者であると言える。

 脳科学の視点からも、スポーツと暴力の関係改善に取り組む研究成果が出されている。 村井らによる脳損傷と攻撃性の関係性に関する研究は、前頭葉(特に眼窩前頭皮質)に 損傷があると、自分の感情を抑える力が欠如し暴力が増える傾向にあることを示した [62-64]。また、脳に損傷がなくても善悪の判断を学習する機会がなかった場合には、報酬を求めて犯罪と関わる暴力につながる可能性が高いこともわかった。暴力を減らすには、前頭葉を損傷しないことと、幼少期の学習が大事であるなどが指摘できるが、善悪の学習には、報酬と罰の刺激頻度バランスとタイミングが重要で、一般的に報酬刺激 (褒めること)より罰刺激(叱ること)のほうがより印象に残るため、罰刺激を中心とする指導では善悪の判断力を伸ばすことができずに、暴力は減少しないことになる。

以上のことから、「暴力根絶」を合い言葉として掲げるような精神論だけでは暴力を減らすことができないことが明確である。暴力を削減し最小化するためには、アスリー トと指導者の前頭葉損傷を防ぐことが必要であり、指導者が報酬刺激と罰刺激の関係な ど暴力に頼らない指導方法を熟知する必要がある。「3 エビデンスに基づくスポーツ」 で述べたように、最先端技術によるスポーツデータの取得とその統合的解析を進め、人間の認知では測ることのできない科学的エビデンスに基づく指導方法を考案し、可能な範囲で指導者が共有し、意見交換しながら、現実の指導にあたっていくことが肝要である。これと同時に、アスリートの生涯を長いタイムスパンで捉え、その幸福を高めるという視点からスポーツの価値を再考し、広く共有して、アスリートと指導者を行き過ぎ た競争から解放することも必要である。

 

 この中にでは、桜宮事件をはじめ、近年起きた数々の暴力事件は書いていません。この項目だけでなく、全体を通じて、そうなっています。具体的な事件には触れないというスタンスだったのでしょうか?

 

 「6 提言」の中で、「⑷スポーツにおける暴力の削減と最小化」という項目もあります。

 

 現代のスポーツは競技の意味合いが大きく、「相手を倒す」ことが目的化することから暴力との親和性が高くなりがちであるため、暴力の根絶は容易ではない。スポーツにおける暴力には指導者の影響が大きいため、暴力に頼らず、科学的エビデンスに基づく 指導方法の開発を進めることが必要である。また、指導者は、開発された方法を活用することが暴力防止に有用である。指導方法の開発には、スポーツ科学だけでなく、脳科学や情報学、データサイエンスなどとの学際的研究として進めることが望ましい。スポ ーツ庁はそのための政策を明確に示し、スポーツ関係機関と関係者にその実行を促すことが望まれる。同時に、生涯を通して得られるスポーツの価値を広く共有し、選手と指導者を行き過ぎた競争から解放することも必要である。

 

 提言では「暴言」には触れていない。

 また、被害者救済の仕組みづくりやケアについては書いていません。論点として浮上しなかったのでしょうか?浮上しない理由はなんなのか。あるいは論点としては浮上したものの、今回の提言から外したのか?外したとしたらなんなのでしょうか?気になるところです。